午後の政務が終わり、決裁が終わった大量の書類を持って小十郎が退室すると、それを追うように綱元も部屋を出て行った。視線の端で眺めながら政宗は全員に退室しろ、と告げて、小姓までも下がらせると、愛用の煙管を取り出して煙草に火をつけて深く吸い込んだ。
その視線の端に退室の命令を綺麗に無視した成実がカタン、と障子が閉ざされたのを確認して足を崩してちらりと政宗を見る。
「梵は煙草好きだねぇ」
「Ah?薬だろ。お前もヤれよ」
「いやだよ。俺はその臭いがダメだ」
「Ham、小十郎とおんなじことをいいやがる」
足を崩して「殿」や「政宗さま」ではなく、「梵」と呼んだ成実に、今は幼馴染の二人に戻っていることを暗に告げて、伝法な口調に戻る。滅多にない二人だけの幼馴染の時間。小十郎とは二人きりになっても守り役には戻ってくれないから、この幼馴染と過ごすは政宗にとって気の置けない大切な時間だった。
「───────────で?」
「何?」
「成、最近なんで小十郎にやたら絡んでやがる?」
「景綱のこと?」
「ソレ、だ。いつから小十郎じゃなくて景綱って呼ぶようになった?」
「別に、俺は成り上がり者が嫌いなだけだよ。あいつ、最近梵の側近なのをいいことにやりたい放題だからさ」
少し遠くを眺める瞳で吐き捨てる成実に、政宗はすぅっとひとつしかない瞳を細める。
「ざけるな・・・・・・」
「何?」
「俺とお前、一体どんくらいの付き合いだと思ってやがる」
「梵?」
「テメェが嘘ついてんのぐらい、わかんだよ。so fool」
「嘘じゃないよ。ホントに。最近の景綱を見てると苛々する」
「Ha・・・・・・・・」
「伊達家のため、自分は忠臣になったつもりだろうけど新参者と譜代とで家中は真っ二つ。献策は確かにいいものを持ってくるけど、でも半分は慎重すぎてダメだ」
「だがテメェは更迭しろとはいわねぇんだな」
「───────────ま、ね。忠臣であることには変わりないだろ?」
「Hum・・・・・・・・・」
ぷかり、ぷかりと煙管から立ち上る煙がゆらりと揺れて部屋の中に消える。しん、と静かになった部屋で、しばらく無言でいた政宗が不意ににやりと笑った。
「I see」
「・・・・・・?」
「お前は小十郎が俺に構いつけてんのが気に入らねぇだけか」
「は・・・・・・?」
「You little devil!」
「違っ───────────!!」
「何だ、それならそう言え。ちょうどいい。あの小言が聞こえなくなる時間がほしかったとこだ。明日からちゃんとお前と小十郎の二人きりの時間を作ってやるよ」
「違うだろっ!!コジュは梵のために家中の掃除をしようとしてんじゃんか!それを手伝って何が悪・・・・・っ!?」
小憎らしい、という表情でからかわれてとっさに怒鳴りつけた成実は、「あ」と呟いて我に返る。直情的、と小十郎には言われていた性格は当然政宗にも筒抜けな訳で。先ほどよりも笑みを深くした政宗に、嵌められた、と唇をかむ。
「───────────成」
「なんだよ」
「so fool」
「・・・・・・・うっさいよ。どうせコジュにもそう言われたよ」
ぷぅっと頬を膨らませた成実に、政宗の視線から逃れようと明後日の方向に顔を背ける。資福寺で育った中で一番年下の時宗丸は、なんだかんだといいながら一番不器用だった。それはきっと犬のように小十郎の後ろをついて歩いていたせいなのかもしれないが、小十郎の不器用なところまで似なくてもいいだろうに、と思う。
「で、景綱、か」
「───────────」
「Okey。騙してみせな」
「梵?」
「俺は何も聞かなかった。お前と小十郎が仲違いしてやがる」
「───────────うん」
「ま、お前の性格じゃすぐにバレるだろうけどな」
「そんなへましないよっ!!」
「Ha、やってみせろ」
「ってかさ、梵はほんっと、そういうとこ、コジュにそっくりだ」
「・・・・・・・・・Damn it」
膨れたまま主君をちらりと眺めて呟くと、今度は頭をはたかれて成実は「だからそういうのもそっくりだよ」と叩かれたそこをさすりながら涙目になって加害者の政宗をにらみつけた。