「おはようございます、巫女さま!」
「お、おはようございます・・・・・」
「筆頭と片倉さまの食事、今日も頼んます」
「うん、お盆、貸してくださいね」
「へい!」

従軍してから二日。すっかりとなじんでしまったらしく兵士たちがさっそくお盆を持ってきてに差し出した。出陣中の食事は大量に作っておいて政宗も小十郎も同じものを食べる。このときばかりは奥州筆頭であっても差別されることはない。だからは朝起きたら炊き出しをしている兵士たちの元に顔を出し、政宗と小十郎、そして自分の食事を受け取って政宗の陣に向かう。本当なら成実のものも受け取っていこうとしたのだが、彼は自分の兵たちと食べる、と言っていたから、三人分を受け取っていつものように陣に向かった。

「Good morning」

政宗は既に起きだしていてが来るのを待っていた。見れば小十郎の姿がなく視線で問いかけると政宗は小十郎はすでに出陣の用意のために出ていったと告げられ、は手に持っていた食事に視線を落とす。

「じゃあ小十郎さんの、返してきます」
「後でいいだろ。腹が減った。お前来るのが遅いんだよ」
「う・・・・すみません・・・・・」

指先でこちらに来いという仕草をする政宗に逆らわずに彼に盆を差し出すと、政宗は自分の分を取り上げた。お腹が空いている、というのは嘘ではないのだろう。一応が座るのを待って食べ始めると、瞬く間にお椀が空になっていく。その食べっぷりにあっけにとられながらも自分も箸をつけた。男だらけの軍ではあるが、政宗自身が料理が趣味というだけあって、出てくる料理はおいしいものが多い。今日は米沢で生産した味噌で煮込んだ山菜やキノコが主ではあるが、米を丸めた団子などで食べごたえはある。の椀も空になってしまうと政宗は小姓を呼んで椀を下げさせて、を手招いた。

「で、暇だろ?」
「う、うん。まぁ・・・・・暇、だけど」
「よし、付き合え」

にや、と笑う隻眼に嫌な予感が走るが、断った場合の仕返しの方が怖かった。頷いたに政宗はしてやったりの笑顔を見せると、は頬をひくり、と引きつらせる。だがいつもはそれすらからかってくる政宗は妙に上機嫌で逆にそれが気にかかる。

そして政宗が小姓たちに命じて用意させたものには思わず目が点になった。

「双六、知ってるか?」
「う、うん・・・・・・知ってる、けど・・・・・これも双六なの?」

恐る恐る聞いたに政宗はあっさりと「Ya」と頷いて適当な木を削って二人分の駒を作り始めた。地面に広げられたそれに確かに見覚えはあった。施設の子供たちでたくさん遊んだ双六。なかなか『あがり』に止まれなくて何度も悔しい思いをしたことを思い出す。マスに書いてある文字はよくわからないが、大体図解されていて何となく想像がつく。双六の上に無造作に置かれているサイコロを手に取ってみれば、懐かしさに思わず微笑んだ。

「おい」
「あ、ありがとう」

そうこうしているうちにの分の駒を渡される。ちゃんと女性の形になっている駒に政宗はにや、と笑ってみせる。

「ま、ちっと女っぽすぎるかもしれねぇがな」
「・・・・・どうせ私は胸ないですよ・・・・・・」
「Ah?そうだったか?」
「───────────っ!?政宗さんのエッチ!!」

思わず真っ赤になるにくつ、と喉の奥で笑い声を立てているうちに政宗の駒も完成したらしい。はじめ、の位置に政宗が駒を置いたのを見て同じマスに自分のそれもおく。ちょうどその時、「政宗さま」と声がして小十郎が陣の中へと入ってきた。

「何をなさっておいでですか?」
「見りゃわかんだろ。双六だ」
「いえ、この小十郎がお聞きしたいのは、この非常時に何をしておいでか、ということですが」
「固いこというな。暇なんだよ。小十郎、お前も混ざれ」
「いえ───────────」
「じゃ小言を言うんじゃねぇ」

鼻歌でも歌いそうな機嫌のよさで告げる主君に小十郎の眉間のしわが深くなる。当然といえば当然の反応には心底小十郎に同情した。

、何をかける?」
「は───────────?」
「ただ双六をやんのはつまんねぇだろ。、お前は何が欲しい?」
「べ、別にないよ」

政宗がさっさと話を進めていくにしたがって小十郎の表情が険しくなってゆく。政宗はにやにやと笑っているから当然承知の上なのだろうが、はそっと小十郎の表情を伺いながら小さくなる。

「Ah?だったら、お前が勝ったら城下に連れてって好きなモンを買ってやる。それでどうだ?」
「好きなって・・・・・ええと・・・・・」
「お前も女だろ。着物とか甘いモンとか欲しくねぇのか?」
「甘いものは食べたい!」
「Shit・・・・色気より食い気かよ」

甘いもの、に思わず反応してしまったに舌打ちする政宗を小十郎は険のある顔でじっと見据える。

「政宗さま」
「Ah、小十郎、戦のことはすべてお前の管轄だろうが。今俺がやることあるか?」
「確かにございませんが、兵の士気というものが」
「Ha!伊達軍にゃ俺が双六をやってるからって士気が落ちるような兵がいるわけねぇだろ。わかってるなら加われ」
「いや、しかし」
「だったら下がれ。邪魔だ」

じろ、と筆頭の顔に戻った政宗の視線に小十郎はひとつ大きなため息を残して立ち上がる。


「は、はい!?」
「政宗さまに勝つなんて真似しやがったらただじゃおかねぇぞ」
「わ、私!?って、どうやったら双六でわざと負けるとかできるの?」
「おい小十郎。に当たんじゃねぇ。で、俺が勝ったらそうだなぁ・・・・・・」
「───────────」
「一日俺に付き合え。Okey?」
「う、うん。それならいいよ」
「よし、成立だな。小十郎、いつまでそこにいるんだよ。やらねぇなら下がれっつってんのが聞こえねぇのか?」

パチン、と指を鳴らした政宗が何か言いたげな小十郎にしっしっと手を振ると、小十郎はしぶしぶながら頭を下げて陣を出ていった。

「小十郎さん、何しに来たんだろ・・・・・・」
「おい、始めるぜ」

そんな小十郎に首をかしげただったが、政宗にせかされるままゲームを始めてしまい、その疑問をいつの間にか忘れてしまっていた。


そして───────────

「やったぁっ!!上がり!!」
「Shit・・・・・・・この俺が負けかよ」
「うわぁ、双六で勝ったなんて初めてかも!!」

小一時間二人で双六に興じていたが、上がりまであと6マスというところでがサイコロでぴたりと6を出し、上がってしまった。政宗は、というと、上がりまで一マス。それも一度上がりを通りすぎ、余った数下がっていたところだった。まさか勝てるとは思わなかった勝負には興奮したようにはしゃいだ声を上げた。

「チッ・・・・・・仕方ねぇな。米沢に帰ったら城下に連れていってやる」
「うん!楽しみにしてるね!」
「Ah・・・・、喉乾いたな。何か持ってきてくれ」
「あ、わかった。何かもらってくる」

そして勝負に勝ったが嬉しそうな表情のまま陣を出て行くのと入れ替わりに小十郎が入ってくる。地面に置いてある双六とその結果をちら、と見やって小十郎はサイコロを手に持って眉をひそめた。

「政宗さま」
「Ah?」
「いかさまは感心しませんな」
「るせぇよ」
「失礼、お手のものを」

差し出された小十郎の手に、政宗はしぶしぶ自分の袖に隠し持っていたもう一つのサイコロを乗せた。小十郎が両方のサイコロを手に取ってふぅと息を吐き出して咎めるような視線を向けると、政宗はチ、と舌打ちしてそっぽを向いた。が上がりに使ったサイコロには細工がしてあり、必ず6が出るようになっている。対して政宗が隠し持っていたサイコロは1だけが出るような細工が施してある。だが小十郎が無言のまま政宗を見つめると、政宗は袖からもう一つサイコロを出して小十郎の方へと放り投げた。

「二つも隠し持っておいでとは」
には言うなよ」
「───────────まぁ、に勝たせているのでしたらとやかくは申しませんが」
「だったら小言はよせ」

最後に小十郎に放ったのがごく普通のサイコロだった。政宗は器用にも3つのサイコロを巧妙に使いながらにわざと勝たせたのだ。それを言い当てられてタネを言い当てられた手品師のような憮然とした表情になる政宗に小十郎はふぅ、と溜息をついただけで政宗に向き直った。

「明日のことですが」
「Ah・・・・・・・」
には成実さまをつけて避難させます。そのご許可を」
「───────────」
「乱戦になれば守ることもできますまい。成実さまであれば安心して任せられましょう」
「わかった。成には俺から言っておく」
「お願いいたします」

頭を下げた小十郎が手の中にある普通のサイコロだけを置いて去っていくのに、政宗は盛大な舌打ちを洩らして戻ってきたに当たり散らす。何が何やらわからないの悲鳴が陣の中から響き、小十郎はまた大きなため息をつく羽目になった。



<Back>