〜現代リーマンパロ 元親〜
ひっでえ顔。
独眼竜と右目に連れて来られた女を見るなりそう思った。勝ち気そうな眦に険を刻み、睨みつけるように俺を見た。何か嫌な感じだなぁ。俺の勘は大抵はずれねぇ。だから俺は出来るだけその女の事には触れずにいた。結局その日はそのまま独眼竜とともに帰って行った。
翌日その女が一人で訪ねてきた。仕事だから仕方ねえんだろうが、またあの険のある目で睨まれるんじゃやってらんねえなあと思ってた。だが・・・
「昨日は大変失礼しました。改めてご挨拶にお伺いさせていただきました」
にこりと笑ったその顔に目を疑った。綺麗な笑顔じゃねぇか。柄にもなくそう思った。
それから度々顔を合わせるようになった。優秀な秘書の顔だけじゃねえ。他愛もないことで笑いやがるんだ。最初に会った時の印象とあまりにも違うの笑顔に惹かれていくのを止められねぇ。惚れる、とまではまだいかねぇが、かなりいい線をいってるだろう。が訪ねてくるのを楽しみにするようになっていった。だが、あるときだった。唐突に右目が俺を訪ねてきたのは。俺にとっちゃどうでもいいが、アポも取らずに来るなど珍しい。それに妙に怖ぇ顔をしやがって。俺はそんな右目には気付かねぇふりで手を上げる。
「おう、どうしたい?忙しいからを俺の担当にしたんじゃなかったのかい?」
「まあ、な」
歯切れの悪い言葉はこいつらしくねえ。アポのことといい、長い付き合いの中でもこんな右目を初めて見る。
「長宗我部」
「何だよ?」
「最近いやにを呼んでるな?」
「ああ?」
じろ、と目を上げた右目の言葉が引っかかる。今こいつはと呼ばなかったか?苗字ではなく。それに俺がと会ってんのは仕事の話をしてるだけで個人的に会ってるわけじゃねぇ。何を考えていやがるのかよくわからねぇから、そのままを答えてやる。
「別に仕事の話をしてるだけだぜ。お前んとこに報告があがるんじゃないのか?」
「まぁ、そうだが・・・・・・・・」
息を吐くように告げた右目に俺は探るような視線を浴びせてやる。伊達のグループ会社を支えるこいつが、用もねぇのにわざわざ俺の所に来る理由がわからねえ。こいつとはそれほど仲がいいわけじゃねぇ。昔はやりあった間柄だ。今は仕事上の取引先の偉い奴、ぐらいの認識だ。ま、こいつを敵に回すと厄介なのは確かだけどな。
「用件は何だ?」
「いや、何でもねえ」
「あぁ?どういう意味でぇ?」
「悪い、また連絡させる」
「って、おいおい。テメェ本当に何しにきやがったんだよう」
たったそれだけを言って右目は帰って行った。呼びとめても何か考えているようで振り返りもしなかった。本当に意味わからねえ。首をかしげているうちに、野郎どもが駆け込んできやがった。どうやら俺宛の電話らしい。誰からだ?と聞けば独眼竜かららしい。また珍しいこともあるもんだ。無造作に受け取って耳に当てると、イラついた独眼竜の声が挨拶もそこそこに響いてきた。
『おい鬼、小十郎はそっちに行ってねえか?』
「つい今しがたまでいたぜ」
『Shit!そこが正解かよ』
「何だあ?」
『あの野郎もうすぐ会議だってのにいねえんだよ、ったく。行先を言わずに出かけてやがって探す羽目になってんだよ』
「おいそりゃ槍でも降るんじゃねえか?」
『Ah?降るかもしれねぇな。で、小十郎はどうした?』
「帰ったみてぇだが、どこに行ったかは知らねぇぞ。携帯は出ねぇのか?」
『出たらこんな電話してねぇよ。悪ぃ、助かった』
独眼竜が行方をくらますことはあっても右目がいなくなることがあるとは思わなかった。ん?てぇことはあの野郎、独眼竜にも内緒で来たのか?あの独眼竜を最優先させる絶対服従の野郎が?珍しい。本当に明日は槍が降るんじゃねぇのか。そう思いながらコーヒーを淹れようと台所に向かう。だがフィルターをセットした手がふと止まる。ちょっと待て。あの野郎が独眼竜よりを優先しやがったのか・・・・・?
そう思い付いたとき、俺はコーヒーを飲んだわけでもねぇのに苦いものが口に広がってゆくような気分になった。右目にとって一番大切なのはもしかして───────────。
「そういうこと、かよ・・・・・・」
ギリ、と奥歯が音を立てる。他の男と同じ女を取り合うなんざ俺らしくもねぇ。だが、本当のお宝はかっさらってでも手に入れてぇ。は俺にとってそれだけの価値のあるお宝なのか?考えれば考えるほど深みにはまりそうだが、嫌じゃねぇ。そうか、俺はのことを一人の女として気になってたのか。成程な、ったく俺も厄介な女に惚れちまったらしい。だが、悪くはねぇ。問題はどうやってかっさらうか、だ───────────。まだ時間はある。焦る必要はねぇ。お宝が手に入るまでじっくりと策を練って行けばいい。
、覚悟しとけよ。俺はアンタというお宝をいつか奪いにいくからな。