「───────────ったく何でこうなるんだよ」
「まぁまぁ」
「何で怒らねぇんだよ。大体お前が二人きりで出かけたいって言ったんだろうが」
「そう、なんだけどね・・・・・・・」
あはは、と乾いた笑いを浮かべながらも何故こうなったのだろうか、と思う。政宗と二人きりで出かけるはずだった。それが準備しているうちにいつの間にか部屋の外で小十郎が控えていて、「ご案内致します」と告げられ、それを断って外に出れば人待ち顔で待っていた幸村がいた。眉を寄せる政宗が手を振って拒否をしめそうとしても「どこかへお出かけか?されば某、ご案内いたすでござるぅっ!!」としつこくつきまとってくる彼に、結局政宗が折れた。そうすればもう後はなし崩し。幸村が同行するなら自分も、と結局小十郎がついてきて、そして幸村に案内されるままについてきた団子屋に佐助が座って手を振っているのを見て、よく政宗が暴れなかったものだと思う。土地勘がないということもあるのだろうが、不機嫌そうに茶をすすっている姿に思わず首をすくめてしまう。
「どの、いかがでござるか!?ここの団子は!?」
「はい?」
小声の会話が聞こえているのかいないのか。食べるとはなしに手にしていた団子を口に運びながら気もそぞろのにずい、と身を乗り出してきた幸村に目を丸くする。話しかけられていたような記憶はないが、見れば幸村の手元の皿は綺麗に空になっており、串が3本並んでいるのに首を傾げる。
「真田さんは甘い物お好きなんですか?」
「無論にござる!城下に団子屋はいくつかあり申すが、ここの団子が一番だと某は思っておりまする!どのは甘い物は嫌いにござるか?」
「い、いえ、大好きです」
「ならば是非、こちらも食べてみてほしいでござる!」
「は・・・・・・はぁ・・・・・・」
味が違うのだろう。幸村は新しい皿をに差し出してくる。断ることもできず受け取ってしまうとはちら、と不機嫌なそぶりを隠そうともしない政宗にちらと視線を投げる。
「政宗さんも食べない?」
「Ah?いらねぇ。食いたいなら食えばいいだろ」
「う・・・・ん・・・・・・」
不機嫌ここに極まれり、とばかりに「ち」という舌打ちまでついてきて、は思わず首をすくめてしまう。そのやりとりを見ていた幸村が政宗の態度に眉を上げた。
「政宗どの!!」
「Ah?」
「女子に対してそのような言いぐさ、某感心できませぬ!」
「んだと?」
「どのは政宗どのご側室でござろう!無理を押してこの甲斐まで連れてこられるほどご寵愛されておられるのなら、もう少しどのを大切になされてはいかがか」
「おい真田、その言葉聞き捨てならねぇな」
声を荒げた幸村に対して真向から受けてたつ、とばかりの口調の政宗に言われたが思わずぽかんとなった。まさか幸村にかばわれるとは思わなかった。だが不機嫌な政宗に対して火に油を注ぐような一言に慌てて首をふる。
「あ、あの!私は」
「お前は黙ってな」
「どのは黙っていてくだされ!」
大丈夫だから、と告げようとしたというのに異口同音で発言を封じられる。何やら本気で腹を立てている政宗にも驚いたが、は慌てて小十郎に助けてください、とばかりに視線を向けた。さすがに小十郎はその視線の意味を取り違えたりはしない。「政宗さま、往来の者たちが」とさりげなく注目を浴びていることを告げると、政宗はしぶしぶ口を閉じ、慌てて佐助が二人の間に割って入る。
「あ〜ちょっとちょっと二人とも、こんなとこで喧嘩なんて勘弁してくれよ〜。屋敷に戻ったら二人で何しててもいいけどさぁ、ここにはか弱い女の子がいるし、一応ここ、武田領だからさぁ、独眼竜が来てること秘密にしておきたいんだったらもうちょっと目立たないようにしてよ」
毒気を抜かれるような口調に幸村が「す、すまぬ」と謝れば、政宗も舌打ちしてぷいとそっぽを向いた。その二人の態度に「あーあ」とがくりと肩を落とすのを見ながらそっと佐助に向かってごめんなさいとばかりに手を合わせる。それに気づいたのか、軽くウィンクを寄越してくる佐助に少し救われたような気がする。だが険悪な雰囲気は解消されるはずもなく、は無言のままの小十郎に皿を差し出した。
「小十郎さんは、お団子食べない?」
「ああ・・・・・では一つもらうとしようか」
場を和ませてくれるつもりなのかもしれないが、普段は政宗の前では甘いものなど食べない小十郎がつまんでくれたのにほっとする。自分も串を一本取って口に運ぶと、団子の甘さが口いっぱいに広がった。
「おいし・・・・・・。このお団子、美味しいですね。ね、小十郎さん」
「そうだな。確かに真田が勧めるだけはある」
「でござろう!!どのも片倉どのもお目が高うござる!この団子屋は数ある中でも拙者の」
「旦那、旦那!それさっきも言ったから」
「さ、左様でござるか?」
「そーそ」
「お二人とも、どんどん召し上がられよ!まだ沢山あるでござるからな」
胸を張る幸村が皿を渡してくるのに、「はぁ」と生返事を返してちら、と政宗を見るがそっぽを向いたまま。小十郎も気にかけているようで、視線が合うと小さく首を振った。「そっとしておいてくれ」と声が聞こえてくるような仕草に苦笑する。自分の代わりに怒ってくれているのはわかるが、よく考えてみればここは政宗にとっては他国であり、二人きりで出かけるなど小十郎が許すはずもない。政宗だってわかっていただろうに、小十郎と視線すら合わせようとしないのは無意識の甘えなのだろう。だが不機嫌を張りつかせたままの彼と必死で取り持とうとする佐助に申し訳ないと思ってしまう。だからは団子の皿を持って政宗の前に置いた。
「政宗さん、あの・・・・・・ごめんね」
「お前が謝る必要はねぇ」
「だって私が言い出したことだし・・・・・その・・・・・・・・」
「別にお前に怒ってるわけじゃねぇ」
「あ・・・・・うん・・・・・・・」
団子には手を出さずに茶だけをすする彼に結局どうしていいのかわからない。視線をさまよわせるに、佐助が何かを思いついたように顔を上げた。
「ねぇちゃん、ちゃんに似合いそーな可愛い簪を近くの店で売ってんだけどさぁ、後で行かない?」
「え?・・・・・・ええと・・・・」
「俺様が腕によりをかけてちゃんに似合うのを探しちゃうよ。ね、行こうよ」
「あ・・・・ありがとうございます」
唐突にそんなことを言いだした佐助に目を丸くしながらも断る理由もないから小さく頭を下げる。政宗はちら、と佐助を見ただけで無視を決め込んだ。絶対零度の態度には思わず頭を抱えそうになる。前から思っていたが、政宗が佐助を嫌っていることはわかるが何故それほどに仲が悪いのかと思う。そう考えている間に佐助がするりとの隣に腰を下ろす。
「あー、さすがにいい簪してるよねぇ。これ独眼竜の趣味でしょ?」
「え───────────?」
すぐ隣から響いてきた声に驚いて顔を上げたの髪に佐助の手が触れる。あまりの距離の近さに思わず身体をのけぞらせようとしたに佐助が顔をかくような仕草を見せる。
「そんなに警戒しなくてもいいじゃん。俺様ちゃんのこと可愛いなぁって思ってるだけだからさ」
「あの・・・・・・それは嬉しいんですけど」
「ホント!?いやー、嬉しいなぁ。じゃ独眼竜がちゃんに飽きたら俺様んとこに来てよ。俺様、こう見えても女の子には優しいよ?こんな風にね」
す、と佐助の手が伸びてくるのを避けようとしたが間に合わなかった。頬に何か温かいものが触れ、慌てて身を引こうとしたが遅かった。触れたものが佐助の唇だとわかった途端、は悲鳴を上げた。その途端だった。一迅の光が目の前を通った、と思ったのはどうやら白刃だったらしい。それがわかった瞬間、は二度目の悲鳴を上げた。二度目は紛れもない恐怖。その刃は人を切り刻むものだと認識しているから猶更だ。抜いているのは政宗で、怒りをまとった背にかばわれるような体勢には本気で泣きたくなった。だが、彼女の悲鳴は凍り付いていたその場にいた人間を一瞬で我に返らせた。政宗が怒りに任せて白刃をふるう先にはすでにターゲットとなった佐助の姿はなく、さすが忍びと言うべきか、身軽に木の上へと飛び乗っている。だがここは白昼の往来である。まずいと思ったのだろう。小十郎が政宗にとびかかるように振るっている右腕をなんとか捕まえる。
「小十郎放せ!」
「政宗さま!おやめください!」
「るせぇっっ!!あの猿!叩っ切る!!」
「ま、政宗どの!佐助の非礼は幾重にもお詫び申し上げる!何卒、ここは控えられよ!」
「真田、二度は言わねぇ。そこをどけ」
地を這うような声音に一瞬幸村の肩が揺れる。彼が本気で怒っているとわかったからであったが、腕をつかんだままの小十郎も後ろから声を沿える。
「政宗さまの足ではもう猿飛は捕まえることかないませぬ。落ち着かれよ」
「小十郎、放せって言ってんのが聞こえねぇのか」
「政宗さま!」
揉み合う二人の争う声に震えていたが恐る恐る顔を上げた。白刃をさらしたまま、それを振るおうとする政宗を止める小十郎の額にはうっすらと汗がにじんでいて、本気で彼を抑えていることがうかがえる。すでに佐助の姿はどこにもないのだが、政宗が怒りに震えるのに、は震える手を政宗に伸ばす。
「ま、政宗さ・・・・・・」
「どの、大事ないでござるか!?」
だがそれに気づいてくれたのは幸村の方だった。政宗は小十郎に任せての声が震えているのに手を差し伸べてくれる。
「私は、大丈夫です・・・・・政宗さん!」
彼の背中が怖くて怖くてたまらない。もし万が一その怒りの矛先が自分に向いた時の恐怖に身体が震え、消えない記憶に逃げ出したくなる。だけど今彼が怒っているのはまぎれもなく自分のせいで。こんなに怒ってくれるとは正直思わなかった。嬉しさと同時に恐怖が身体中を縛り付ける。でも───────────、精一杯の声に暴れていた政宗の身体がぴたり、と止まる。
「もう、いいよ。私は何ともないから。その・・・・・・お願いだから・・・・・刀、しまって・・・・・・・」
政宗が振り返った途端の白刃に思わずのけぞってしまう。だが政宗をじっと見つめながら震えるに、ひとつ舌打ちして政宗は腕をつかんだままの小十郎をじろりと見やる。
「小十郎、離せ」
「───────────は、ご無礼を」
そのまま慣れた仕草で刀を鞘にしまうと、政宗は遠巻きにしている幸村と眉を寄せた小十郎をじろと睨む。
「猿飛が戻ってきたら知らせろ」
「───────────承知」
言い捨てて呆然としているの腕をつかむ。その腕の強さに思わず息を詰まらせるにその腕を引き寄せて軽々と抱き上げる。途端、幸村が顔を真っ赤にして何かを叫ぼうとするが、じろと睨んだ政宗の視線に思わず口を閉じてしまう。そして抱き上げられたは抗議の声を上げる。
「政宗さ───────────」
「黙ってろ」
「・・・・・・・ハイ・・・・・」
先ほどの騒ぎから息をひそめて成り行きを見守っていた茶屋の者たちや通行人たちの好奇な視線に思わず顔を伏せる。だが政宗はそんなことはお構いなしにさっさと歩いてゆく。その身体から立ち上る雰囲気に口を差し挟むことなどできるはずもなく、宿まで無言のまま運ばれることになった。
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