大きな門を見上げて息を呑む。まだここにいることが信じられない心持ちだが、目の前にある大門は確かにそこにある。何者だ、と誰何する門番に軽く頭を下げた。
「喜多さまよりご紹介いただき、本日よりご奉公に参りましたと申します」
そう告げると、門番はなるほど、と頷いて通用門までの行き方を丁寧に教えてくれた。最初見たときは目つきの悪さに萎縮してしまっていたが、話してみれば意外に感じがいいのに驚きながら門をくぐる。教えられた通りに通用門までたどり着き、同じことを告げれば話が通っていたのだろう。上がるように、と言われ一室へと通される。奥働きをしている女たちの領分だから装飾も最低限なのだろうが、それでも田舎育ちのにとっては見るものすべてが目新しかった。ピカピカに磨き上げられた廊下、ふすまの一つ一つの家紋をかたどった装飾(それでも略式紋らしいが)、奥へと進んでいく毎に豪華になる内装はまさに夢のような光景で、今から自分がここで働けることに感謝した。
しばらく進むとある一室の前で案内役が止まる。「今日からご奉公の女中が参りました」と声をかけると中からはやわらかい声が答えてくる。
「お入りなさい」
「さあ」
「は、はい」
障子を開けて中へと入ると、そこには一人の女性が座っていた。どうぞ、と言われ腰を下ろして案内役を帰してしまうと、その女性はにこりと笑って言った。
「待っていましたよ。確か・・・・・家の、でしたね」
「は、はい。あの・・・・・」
「申し遅れました。私は喜多と申します。殿よりこの奥をお任せいただいております」
その言葉に思わず息を呑んだ。喜多の名はもちろん知っていた。彼女を訪ねろといわれていたが、当代の伊達家の領主である政宗の乳母であり、腹心、片倉小十郎の姉に当たる女性だ。伊達領に住む女たちの憧れの存在といってもいい彼女に目通りができるだけでも幸運なのに、直接こんな風に声をかけてもらえることになるとは数日前までは思っても見なかった。
「ようこそ、米沢城へ。慣れないこともたくさんあるかと思いますが、この喜多を姉とも母とも頼って一日も早く伊達家のお為になれるよう精進してください」
「は、はい!」
「そのように緊張しなくても良い。そなたは殿より直接御召だしされたのです。もっと堂々としていても良いのですよ」
「で、でも・・・・・・その・・・・・・・」
「とにかく、今日は疲れているでしょう。部屋へ案内させます。ゆるりと休んで、明日から期待しておりますよ」
「は、はい・・・・・・・・」
にこやかではあるが、口をさしはさむ余裕などあるはずもない。頷いてしまうと、喜多は一人の女中を呼んで部屋へと送られる。四畳半の部屋がに割り当てられた部屋だった。一人部屋ということにまず驚いた。奉公にあがっているのは自分だけではない。ほかの女中たちと一緒の部屋になるものだと思っていたから、分不相応な応対に居心地が悪い。完全に一人で部屋に残されると、は荷物を置いて座り込む。
「本当に・・・・・・来ちゃった・・・・・・・」
ひとりごちてぐるりと部屋を見回して自分に降りかかってきた幸運に瞳を閉じる。
「お殿様。ありがとうございます」
もしかしたらお目見えすることもあるのかもしれない。そんな期待を胸に持ってきた荷物を解き始めた。
事の起こりは三日前だった。が暮らしていたのは伊達家の領地とは言っても国境にごく近い田舎の村だ。一応苗字を名乗るだけの武士ではあったが内情はほぼ農家と変わらない。だがいざ戦となればの父は刀を取って参陣していたから、自身も伊達家への忠義の気持ちは持っていた。そんなある日、は隣町の庄屋から手伝ってほしいとの要請を請けた。とある武家の饗応に女手が足りないから手伝ってほしい、というものだった。こういった仕事は割のいい賃仕事になるから二つ返事で引き受けたのだったが・・・・・・。
上座に陣取った武家は明らかに尋常ではない雰囲気を持っていた。前髪を下ろして右目を隠し、左目だけでちら、とこちらを見た視線に冗談ではなく息が止まるかと思った。なんてカッコいい方、と一目で心を奪われた。だがの気持ちはその場にいた女たち皆に共通していたらしく、誰が酌をするか、で水面下での争いが勃発するほど。その妖艶な男のすぐ隣に腰を下ろしている大柄な男は見るからに武士、という体つきをしていた。上半身は鋼をまとったように筋肉がみっしりとついているのは服の上からでもわかる。頬に傷があるのは難といえば難だがそれすらも男らしさを引き立たせているようだ。先ほどから上座に陣取った妖艶な男から親しげに話しかけらる度に、眉間のしわが寄るが、妖艶な男はむしろそれを楽しんでいるような態度には首をかしげた。変なお武家様。感想といえばそういうことだ。
しばらく酒宴が続き、もほかの女たちも料理や酒を運ぶのに右往左往していると、ふと妖艶な男がを呼んだ。
「Hey,Girl、酒がないぜ」
最初は何を言われているのかわからなかった。だが彼の視線は自分を見ていて、気がつけばちょうど女たちが台所に下りているらしく、この部屋にいるのは自分だけだった。
「は、はい、ただいま」
ちょうど台所から戻ってきたばかりだったからお盆に乗っている徳利を渡そうとするが、男は無遠慮に猪口を差し出してくる。酌をしろ、ということなのだろう。それも今日の賃金のうちだと思っていたからお盆をおいて猪口に酒を注ぎいれる。だが男はそれを一気に飲み干してしまうと、に向かって差し出した。
「え・・・・・・・・」
一瞬、戸惑ったように体が硬直する。ちょうどそのとき、台所から戻ってきた女たちの声が耳に入ってきたからだ。男に酌をしている自分に対する瞳が痛い。男の差し出された杯の意味がわからないほど子供ではないつもりだが、どうしようか、と戸惑っていると、隣に座っているもう一人の男が口を開いた。
「ご返杯をと申されている」
「え・・・・・あ・・・・・あの・・・・・・私、不調法なもので・・・・・・・」
助け舟のつもりだろうが、独特の低音に一瞬息を呑む。そして妖艶な男ともう一人とを見比べて、は小さく首を振った。
「Ah?アンタ、いくつだ?」
「17にございます」
「Hum・・・・・・・・だったら仕方ねぇな。いいから下がんな」
「は、はい。失礼いたしました」
ひら、と犬を追い払うようなしぐさで払われたが、慌てて頭を下げてお盆だけを持って台所へと逃げ帰る。そして次の酒を持って部屋に戻ろうとしたときだった。部屋に向かう廊下で屋敷の女中たちに呼び止められた。思わず足を止めると、の背後に一人、前に二人で囲まれてしまう。おどおどと視線をさまよわせるが、女たちは一様に不機嫌を張り付かせた顔でをにらみつける。
「ちょっとあんた」
「は、はい?」
「少し若いからっていい気にならないでよね」
「はい?」
「何すかした顔してんのよ。あの方たちに気に入られようとわざと私たちがいないところで酒を持っていったんでしょ」
言いがかりにもほどがある。思わずついたため息は本気のそれだった。そんなことは考えたこともなかった。女たちが同じ時期にいなくなるからその穴を埋めようとしていただけだというのに。
「私はただのお手伝いですから・・・・・・・」
「そうなの?そうは見えないわ。あの方たちに取り入ろうとしてるとしか思えないわ」
「いえ、そんなことは・・・・・。そもそもあの方々がどなたかも知りませんし、私は今日の宴会のお手伝いに来ただけで」
「はぁ?そんな言い訳通用するわけないでしょ!」
正直に告げているつもりがどうやら逆鱗に触れてしまったようでどん、と肩を押し返される。予想できない攻撃に体がふらついてしまう。それをいいことに女たちはさらに攻撃を加えようとするが、そんな彼女たちの背後から声が響いた。
「おいおい、女同士の喧嘩などCoolじゃねぇな」
地を這うような声に女たちがに加えようとしていた暴力の手をぴたりと止める。驚いたのは女たちだけではない。もまた驚いて顔をかばおうとしていた手をはずして視線を上げると、そこには宴会の中心にいたはずの妖艶な男が軽く柱にもたれかかるような格好でこちらを見ていた。にや、と口元には笑みを浮かべているが、こちらをみる左目は凄絶な光を浮かべていて、すくみあがった女たちにじろりと一瞥を投げる。
「このまま何もしねぇってんなら表沙汰にはしないでおいてやる。目障りだ。消えろ」
「ひっ・・・・・・・・・」
男の声に女たちは一斉にきびすを返すと脱兎のごとく逃げ出していった。彼から感じる殺気に自分も逃げ出したい衝動に駆られるが、は大きく息を吸って恩人を見上げた。
「Are you OK?」
「は、はい・・・・・・危ないところをありがとうございました」
彼の言っていることは理解できないが、自分に何かを聞いてきてくれていることだけは理解できた。だから助けてもらったことに頭を下げると、男はにや、と笑っただけだった。
「政宗さま!」
「・・・・・・・・ったく、いいところで・・・・・・」
廊下の奥から聞き覚えのある声が聞こえてきて、目の前の男が軽く舌打ちする音がする。だがそれ以上には男を呼ぶ名前に一瞬動きを止めた。
「政宗さまって・・・・・まさか・・・・・・・」
息が止まりそうなくらいどきどきと心臓が音を立てているのがわかる。よく見れば男がおろしている前髪から右目を覆う刀の鍔が覗いていて、は呆然と彼を見上げた。特徴的なそれを見間違えるはずもない。それに伊達家の領主が隻眼で、右目を刀の鍔で覆っていることはよく知られていた。
「伊達、政宗さま・・・・・・・・・!?」
「Shit!・・・・・・・・・バレちまったか・・・・・・・・」
「政宗さま!どちらにおいでか!?」
の視線でがしがしと頭をかいて男が背後から響く低音に軽く手を上げてみせる。姿を見せたのはもう一人の客人だった。座っているときよりもずっと背が高い。完全に見上げなければならないほど上に彼の視線がくる。男は政宗と呼んだ男に駆け寄ってくると、小さく安堵の息を吐き出した。
「小十郎、でっけぇ声上げんじゃねぇよ。お前のおかげでバレちまっただろうが」
「は・・・・・それは申し訳もなく・・・・・・」
小十郎、と呼ばれた男は大きな体を縮めるように頭を下げる。だが小十郎はちら、と呆然としているを見下ろして告げる。
「女、こんなところで何をしている?」
「何を、じゃねぇだろ。厠に行ったらこの女が他の女どもにつるし上げられてたんだ。な?」
同意を求められた瞬間、は慌てて廊下から庭に下りて平伏する。伊達政宗が小十郎と呼ぶ人物は一人しか思い当たらない。竜の右目、片倉小十郎だ。政宗の腹心中の腹心ともいえる人物で伊達領に住んでいる者なら誰しも知っている英雄の一人だ。
「お、お殿様とは存じませず、数々のご無礼をお許しくださいませ!」
「Ah・・・・・・・・おい小十郎、テメェのせいだぞ」
「そう申されましても。この小十郎に何も告げずに部屋をお出になられたご自身にも責はございます」
「俺のせいかよ」
ぼやく政宗に小十郎はじろり、と平伏するに視線を移す。
「女、政宗さまのおっしゃることに相違ないか?」
「は、はい・・・・・・!お殿様とは存じませず」
「政宗さま、この女は何故他の女どもに狼藉されていたのですか?」
「俺が知るかよ。それよりも」
「左様ですな。この女、いかがいたしますか?」
「手荒な真似はすんな。Hum・・・・・・女」
「は、はい!」
「アンタ、この家のモンか?」
「い、いえ!近隣の村の者でございます。本日はこのお屋敷へお手伝いに」
「里に家族はいんのか?」
「は、はい。両親と弟がおります」
「だとよ。どうする?」
「仕方ありません」
どこか面白そうに告げる政宗に小十郎は渋面のまま小さく息を吐き出した。には二人が何を言っているのかは理解できていないが、じろりと視線を向けられる居心地の悪さに身震いする。
「女」
「は、はい!」
「政宗さまからのお召しだしだ。明日、里から家族ともども米沢へ参れ。また、お前は奥へ奉公を命じる」
「は・・・・・・・・・・・・?」
あまりにも唐突に告げられた言葉の意味がわからなかった。きょとんと二人を見上げたに小十郎は続けて告げる。
「米沢への道のりは護衛をつける。また屋敷はこちらで用意する。いいな?」
「え・・・・ええと・・・・・・」
「何だ?否やはねぇだろうな」
途端、小十郎の声が低くなるのに、身を震わせる。慌てて平伏して了解した旨を告げると、政宗と小十郎は顔を見合わせた。
「城へ着いたら喜多を訪ねな。門番にでも言ったらすぐに通してくれんだろ」
「かしこまりました。姉には伝えておきます」
にやにやと笑う政宗とは対照的に小十郎は渋面のまま。二人を見上げるは何がなにやらわからないまま呆然と平伏することしかできなかった。
翌日、二人にせかされるようにして村に戻ったを待っていたのは、護衛の兵たちだった。昨日のうちに竜の右目が手配したものらしい。既にとその家族を米沢へ召しだす旨、村長のところに下知が飛んでいて、戻ったを村中総出で祝福してくれた。荷物をまとめるのも彼らが手伝ってくれてたちはその日のうちに米沢へと移り住んだのだった。
さらにその翌日、奉公のため出仕したを待っていた待遇に目を丸くしていたのだが、「失礼」と外から声がかかるのに思わず顔を上げた。聞き覚えのある声。小十郎の声だ、とわかったとき、慌てて立ち上がって障子を開けていた。
「おう、来たな」
「か、片倉さま・・・・・!?このようなところに」
「いや、政宗さまから様子を見てこいと命じられたのでな」
「は、はぁ・・・・・・・・・」
「突然のことに驚いているだろうが、何かあったら遠慮なく俺か姉上に言え」
「か、かしこまりました」
頭を下げるに小十郎は小さく笑って肩をたたいてくれた。それだけを告げて部屋を去る彼には首をかしげる。
「片倉さま、一体何の御用事だったのかしら・・・・・?」
の部屋から去った小十郎は足早に政宗の待つ私室へと戻る。声をかけて中に入ると政宗は習慣の煙草を楽しんでいる最中だった。
「で、どうだった?」
「無事に参っておりました。して、政宗さま」
「Ah───────────証拠は?」
「先日の宴で出された酒にはいくつか毒が仕込まれておりました。銀器を持っていって正解でございましたな」
銀器は毒に反応する。注がれる酒を最初にこっそり忍ばせておいた銀器で確認して、危ないものは飲んだふりで始末をしていたのだ。
「Hum・・・・・・・姑息な真似をしやがる。で、いつ出陣する?」
「数日中には。それよりもあの女子、本当に無関係でございましょうか?」
「関係あるんだったらもっとうまい方法で俺とお前をたぶらかすだろうぜ。純朴そのものって感じだったがな」
「しかしながら」
「Shut up。そん時は家族ともども叩っ斬りゃいいだけだろ」
「かしこまりました。そのときはこの小十郎めにお任せを」
「Ah・・・・・・・・」
小さく告げてまた煙管を口に含む。数日前、政宗と小十郎があの町に行っていたのは他でもない。伊達領内で謀反の疑いあり、という報告が黒脛巾組から入ってきたからだ。首謀者をあぶりだすため、政宗と小十郎は身分を隠して潜入していた。無論、小十郎は政宗自身が動くことに異を唱えていたが、何でも面白がる政宗の一言で付き合わされる羽目になっていたのだ。
「だったら、あの女たちがあの娘を狼藉しようとしていたアレも偽装だったかもしれねぇってことか」
「左様でございますな」
ぽつりと告げた政宗に小十郎が頷いた。屋敷の中が何か統一された意思で固まっているような感覚。歴戦の政宗と小十郎だったから感じられる雰囲気に一人、何も知らない女が紛れているのはすぐにわかった。そしてその女が政宗たちの元へ行かないようにけん制していたのも。だからこそ政宗はわざとその女を近くに寄せた。彼女が持っていた酒には毒は入っていなかった。返杯させて反応を見ようとする小十郎にただ「不調法です」と平伏した少女。小十郎は返杯を拒んだ彼女を間者だと眉を上げていたが、面白い、と政宗はそのときに彼女に興味を持っただけなのだが。
時間が過ぎて彼女が部屋から去っていった直後に女たちもいなくなった。いやな予感に追いかけてみればあの修羅場だ。女たちがどれだけ陰謀にかかわっていたかはわからないが、政宗に近寄ったあの少女を殺めようとしていたのは明白だった。放っておいてもよかったのだが寝覚めが悪い。気まぐれで助けてみたのだが、事が露見しているとわかった以上、少女の家族も危険だった。口実をつけて米沢へ呼び出したのだが、どうやら彼女が住んでいた村は伊達に恭順しているようで、それは杞憂に終わったのだが。
「小十郎」
「は?」
「次の戦、暴れるぜ。遅れずについて来い」
にやりと笑う君主に小十郎はたしなめるべきか、頷くべきか迷いながらも、彼の有り余る覇気のはけ口になる敵に対して密かに同情したのだった。
政宗たちが大勝した戦から帰還したのはそれから20日後のことだった。戦の相手がが手伝いに行った先の領主だったのに目を丸くしたのは彼らが出陣した後のことだった。自身は喜多の指導の下、毎日奉公に精を出していた。政宗たちが帰還すると聞いた時もその祝勝会の準備に駆り出され、忙しい日々を過ごしていた。そして祝勝会の当日。帰還した政宗たちが広間に集められ、一斉に宴が始まった。出陣した者は勿論、米沢で留守を任されていた者たちまで交った大がかりの宴だ。女たちが総出で酒や食事をひっきりなしに広間へと運ぶ。無論その中にはの姿もあった。
何度広間と台所を往復したか覚えていない。あっという間に空になる徳利を集めて台所へとまた戻る。そして用意された酒をまた広間へと運んだ時だった。
「Hey,Girl、酒がないぜ」
を呼ぶ声に思わず足を止める。見れば上座に座る政宗がにや、と笑いながら自分を指していて、周りの家臣団からわっと歓声が上がる。
「は、はい。ただいま」
慌てて政宗の側に寄ると、猪口を差し出される。酌をしろ、と暗に告げる彼に緊張した面持ちで酒を注ぎいれる。にや、と笑う政宗がそれを一気に流し込んでしまうと、飲んだままの猪口を差し出された。
「え・・・・・・あの・・・・・・・」
「返杯だ。不調法でも構わねぇ。飲め。酔ったら俺が介抱してやる」
「そ、そんな恐れ多い・・・・・・・!」
「Ah?俺の酒は飲めねぇってか?」
「そ、そんなことは・・・・・・・」
「だったら───────────俺に酔ってみるか?」
「え───────────」
ぐい、と腕を引かれて体勢を崩してしまう。持っている徳利から酒がこぼれたが、それを気にする余裕すらない。、と初めて名を呼ばれたことにも驚いたが、目の前に政宗の端正な顔があって、覗き込まれる隻眼に頭の中が真っ白になって頬が火照る。そしてそのまま政宗の唇がのそれに触れる。突然のことに目を白黒するににやりと笑って政宗が告げた。
「次の獲物はお前だ。覚悟しておくんだな───────────」