政宗の膳は色とりどりの手の込んだ料理が並べられていた。迷った挙句にこちらにしたのだが、政宗は嬉しそうに目を細めた。

「kitty、いい選択だな」
「う、うん・・・・・ええと、いただきます」
「Ah、足りなきゃおかわりもあるぜ」
「そ、そんな食べれません!」

そういいながら箸をとるに食え、とばかりに政宗はひら、と手を振る。「いただきます」と手を合わせてから、一口分に切った煮物を口に運ぶ。

「おいしい!!」
「当然だろ?」

アツアツではないが、ちょうど良い温度が口の中でほこりととろける。目を輝かせるに政宗は満足そうに笑う。一つ一つちょうどの口に入るような大きさに切ってあるのはきっと政宗の優しさだろう。あっという間に煮物の椀が空になり、の手は止まることなく次々と膳の上の皿が空になってゆく。それを満足そうに眺めながら政宗はふといたずらを思い付いたようににや、と笑みを刻む。そしての隣に腰を下ろすと、彼女がお米を口に入れて手が休んだ瞬間、彼女の手からひょいと箸を取り上げる。

「んんんっ!?」

口にものが入っているから言葉を発することができずに慌てるを押しとどめて、早く食べろ、と手振りで示す。慌ててご飯を飲み込んだが政宗の手から箸を取り戻そうと手を伸ばすが、政宗は小さく笑ってその手をつかむ。

「別に意地悪するつもりはねぇよ」
「・・・・・・・本当に?」
「アァ。で、次はどれがいい?」
「どれって・・・・・・」

そう告げる政宗に視線をさまよわせる。彼の手に握られている箸に手を伸ばそうにも距離があって届きそうにない。ちら、と政宗を見上げれば早く選べ、とばかりににらまれてしまい、は恐る恐る椀を手にとった。

「こ、これをイタダキマス」
「Hum───────────」

箸がなくても食べられるのはこれしかなかったからだが、政宗は止めはしなかった。そろりと持ったつもりだが、目の高さにすればお椀そのものもかなり高価なのがわかる。落として割ったら一体いくらになるのだろうか、と考えて慌てて首を振る。

「どうした?」
「う、ううん・・・・・このお椀、高そうだなぁと思って・・・・・」
「欲しいのか?これが褒美になるならいくらでも取り寄せてやるぜ」
「そういうわけじゃなくて・・・・」

ただ単にすごいなぁという感想が言いたかっただけなのだが、どうやら褒美にこだわっている政宗に首をふって口をつける。熱すぎず、かといってぬるいわけでもない、絶妙な温度のつゆが口で踊る。最初はだしの味かと思えば、それだけではないらしい。複数の味が口の中でとろけていくのに、目を輝かせた。

「うわ、おいしい!!」
「気に入ったか?」
「うん!っと・・・・・」

椀の中の具を取りたいと政宗の手の中の箸を見つめるに、彼はにや、と笑ってに密着するように身体を寄せる。

「どれが食いたい?」
「政宗さん!?近い、近いから!」

ふわ、と政宗の着物に焚き染めている香の香りが鼻孔をくすぐるほどの近さに慌てて逃げ出そうとするが、逆に政宗の手で腰を引き寄せられる。「ふぎゃぁ」と猫のような悲鳴を上げたに、政宗は軽く眉を寄せた。

「お前なァ、お前も女ならもっと色っぽい声上げろよ」
「そ、そんなこと言われても」
「いいから、早く食え。冷めちまうだろ」
「そうじゃなくて!気になって食べられないからちょっと離れてて」
「Ah?次はこれか?」

の抗議は無視して魚の切り身を箸でつまみ、の口元へ運んでやる。一瞬、あっけにとられたの顔が真っ赤に染まってゆく。

「ほら、口開けよ」

ゆでだこ、という言葉がぴったりなほど頬を染める彼女ににやにやと笑いながら箸を持っていない手で軽く唇をなぞってやる。「ひっ」と相変わらず女性らしい悲鳴とは無縁な声を上げ固まったままの彼女が恐る恐る口を開くと、そこに魚を差し出した。ちら、と政宗と差し出された魚を見比べて覚悟を決めたのか、ぱくりと口に入れると、政宗は無言でそしゃくするに目を細める。

「うまいだろ?」
「う、ん・・・・・・・」

正直味なんかわからなかった。どきどきと心臓が早鐘を打つように鳴り、腰を引き寄せられたままの政宗の腕から伝わる体温にどぎまぎする。二口、三口と切り取っては口に運ばれるものを咀嚼するが、時折触れる政宗の肩や鼻孔に届く香の香りがますます居心地が悪くなるようで。

「あの、政宗さん、自分で食べれるから」
「Ah?せっかく俺が作ってやったんだ。残さず食え」
「た、食べるけどっ・・・・・!あの、これ、心臓に悪い・・・・・・」
「だったら、こうしてやる方がいいか?」
「ひゃぁぁっ!!」

かたん、と箸をおいた政宗が背後に回り、ぎゅっと抱きしめられる。くつくつと笑う笑みが聞こえてくるから完全にからかわれているのはわかるが、それにしても限度というものがある。わたわたと手をばたつかせるの耳朶にふ、と息を吹き込んだ。

「ふぎゃぁぁぁっ!!」

世にも奇妙な声を上げたの声に反応するようにばたばたと廊下で足音がする。どうやらあまりの声の大きさに控えているはずの八重の耳に入ってしまったらしい。

さま!?いかがなさいました!?」
「八重さぁん、助けてぇ!」
「おい、テメェ」
「はい!?」

だがさすがに無理やり押し入ってくることはしない。政宗の腕の中でじたばたともがくの声に、政宗が止めるより早く八重が「失礼いたします」と障子を開く。そこには抱き合っている主従がいて、あまりの予想外のことに八重は思わずぽかんとして立ち尽くす。

「こ、これは失礼を」
「八重さん、助けて・・・・・!」
「八重、No problem。下がれ」
「し、しかしながら」

じたばたと暴れるを見捨てるわけにもいかず、かといって主命を無視するわけにもいかないと迷う八重の目に今にも蹴飛ばされそうな膳が映る。豪勢な食事を見慣れているはずの八重でさえ、これほどのごちそうはあまりお目にかかれない。無言のまま軽く頭を下げて膳を遠ざけると、八重はやはり様子を見に来た喜多と鉢合わせる。喜多の方は慣れもあるのだろう。大きく息をつくと八重に膳を持って下がるように、と告げて障子を閉める。

「殿、何をなさっておいでです?さまが嫌がっておいででしょう」
「Ah?別にskinshipだろ」
「左様ですか。さま」
「ふ、ふぁい!」
「別室で八重がお待ちしております。お食事の続きをなさいませ」

にこりと笑う喜多の顔が怖い。さすがにその迫力は政宗にも伝わったらしい。腕の力が緩んだ瞬間に転げるように逃げ出してから、慌てて部屋を逃げ出したのだった。そして残された政宗が喜多から食べ物を粗末にするなど言語道断、と散々こってりとしぼられたと聞いたのは翌日のことだった。



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