朝食はいつも広間で取る。それはが側室になってからも変わりなく、毎日顔を出すようにと言われている。政宗には正室の愛姫、側室はを含めて5人いる。君主である政宗は出陣の前夜を除いては彼女たちに差が出ないように毎夜休む場所を変えている。今日は愛姫、次は側室の一人、翌日は、というように。無論政宗と共にいる時間は『竜の巫女』でもあるが一番長いのだが、夜は政宗と共に床に入るのは6日のうち1日だけだ。

今日は側室の一人の元に行っていた政宗が広間に現れたのは朝食ぎりぎりの時間だった。今日は小十郎と綱元、そしての三人が呼び出されている。小十郎と綱元は政宗が来る前に今日の政務の内容などの打ち合わせをしていたが、政宗の入来を告げると、手をついて彼がやってくるのを待つ。はそんなことはするな、と政宗から厳命を受けているので座ったまま彼を待っていた。ずかずかと部屋に入ってきた政宗は見るからに不機嫌で、どっかと自分の席に腰を下ろすと、じろりと三人を見回した。

「おはようございます」
「───────────ああ」

いつもなら「Good morning」と機嫌よく姿を現す彼らしくない返答にちら、と小十郎と綱元が顔を見合わせる。

、Come on」
「あ、うん」

返事をする前に政宗が指先でを手招いて、恐る恐る彼の側に寄ると、ぐいと腕を引かれて彼の膝の上にしなだれかかる体勢になる。一瞬のことで何が起こったのか自分でもよくわかっていなかったが、視線の先の小十郎が深く溜息をつくのを見て起き上がろうと身体をよじらせる。

「政宗さ───────────」
「Shut up。そのままでいろ」

怒っている、とわかる声音で告げられてびくん、と身体が震えるのと同時に、の鼻に今まで嗅いだことのない香りを感じる。お香の香り、だった。それも焚き染めているとわかる。政宗の着物から香るそれに、は思わず顔をしかめる。明らかにさまざまな香をごった煮にしたとわかる香りだった。ひとつひとつの香りならとてもいい香りなのだろうが数種類を合わせたそれはまるで安物の香水をまとっているようで、顔をしかめたの腕に政宗は力をこめる。

「い、痛い───────────政宗さん、痛いよ・・・・・・」
「Sorry」

一応謝ってはいるものの腕の力を抜こうとはしない。まるで香りが身体中にまとわりついてくるような感覚に首を振る。

「ったくあの女、嫌がらせかよ」

小さく舌打ちした声と、のうなじに降りてくる政宗の唇がちゅ、と音を立てて吸い付いて身体を震わせる。

「や、やだ・・・・・・・」
「Ah・・・・・・お前の香りを俺に寄越せ」
「って何、それ!?はーなーしーてー!!」

香りを寄越せと言われても自身はお香などは使っていない。この世界に来る前はわずかに香水をまとうことはあったが、こちらのお香は使っていない。愛姫が焚き染めている香りはいい香りだと思うが、日本的な香りにあまりなじみがないせいでもあるが。

「政宗さま、そのあたりでおやめください」
「Ham・・・・・・・・」

じたばたと暴れるをがちりと捕らえたままの政宗が楽しそうに目を細めるのに、ひとつ咳払いして小十郎が告げる。その声に眉をあげる政宗はと小十郎とを見比べてから仕方ないとばかりに手を離す。ようやく解放されたは身体についてしまった香りに眉を寄せる。自分のものではない香りの嫌悪感がどうしてもぬぐえない。だがここでそれを口にするわけにもいかず、小十郎の指示で運ばれてくる朝食に空腹を刺激される。そして食事を始める政宗に従っても食事を始めたのだった。



 翌日もまた政宗の機嫌は悪かった。焚き染める香りは昨日とは違うもの。抱きしめられた途端その香りに眉を寄せる。そしてその翌日も、その翌日も───────────。毎日変わる香りに政宗が違う女性を抱いた、とわかる香り。最初はわざと考えないようにしていた。政宗にはたくさんの側室がいて、正室の愛姫もいる。自分もその中の一人であることは承知していたが、こう続くと嫌でも意識してしまいそうで。

そしてこの日もまた。


朝姿を見せた政宗は昨日は愛姫の部屋で過ごしたらしく昨日までの機嫌の悪さが嘘のように機嫌が良かった。「Good morning」と軽く挨拶をして、の前を通り席に着いた。途端の鼻をくすぐった香りに、思わず下を向く。

?どうした?」
「───────────ううん、なんでもない」
「Ah?」

いつもよりも濃厚に残っている愛姫が好きな香の香り。ということは他の女性たちよりも長く寄り添っていた、という証左だ。自身が好きな香りではあるが、その香りを嗅いだ瞬間にずん、と黒いものがの腹の底に落ちてゆくような感情に唇をかみしめる。愛姫と政宗は似合いの夫婦だと思う。自分よりも余程。まだ消えない痣の残る自分よりも姫、という称号にふさわしい彼女の方が抱き心地もいいだろう。愛姫はまだ11歳の時に政宗に人質同然に嫁いできた。人質とはいえ、政宗の正室になることを約束されていたから彼とは幼馴染であるともいえる。そんな幼いころから二人は一緒にいたのだ。互いに性格も知り尽くしているし、思考回路も互いに理解している。だからこそ、というわけではないが、愛姫と一緒に過ごした翌日はいつも機嫌がいい。昨日までは不機嫌で真っ先に自分のところに来てくれた政宗が抱きしめてくるのが嬉しかった。だが今日は、上機嫌で手を出しても来ない。それもまたの黒い感情に火をつける。運ばれた来た食事に舌鼓を打つ政宗にならって箸を持ったまま動きを止めてしまったに政宗は視線を止める。

「おい───────────?」
「なんでもないって」
「んな顔してねぇだろ。何かあんのか?」
「何もないよ」
「嘘つくな。Come here」
「───────────嫌」
「Ah?」
「嫌。今食事中でしょ。ごはん食べよう」

箸を置いて暗い顔をしているを抱き寄せようとする政宗の手を振り払う。そして本当に食事を始めてしまうに政宗の表情が強張った。彼女が側室になってから政宗の手を振り払ったことはなかったからだ。かたん、と箸を置く音が妙に部屋に響く。そして政宗はおもむろにの腕をぐい、と引いた。

「───────────っ!?」

手にしていたお椀が畳に落ちて中の米が部屋に飛び散った。声すら上げる余裕もなかった。鈍い音に目を丸くするがそれ以上に驚いたのは政宗につかまれている腕の痛みだ。六爪を自由に操る政宗の握力はそれだけで立派な武器になる。痛い、と声を上げても手の力を緩めてはくれなくて。

、俺の目を見ろ」
「───────────」
「逸らすなよ。ちゃんと見ろ」
「い、痛いよ───────────!!」

目を逸らしたままのをぐいと引き寄せて瞳を覗き込むように抱きしめる。いやいやをするように首を振るの顎を捕らえて自分を見るようにと固定させる。

「やめて───────────!」
「聞けるわけねぇだろ。やめてほしいならこっち見てちゃんと話せ」
「や・・・・・・・・ぁっ・・・・!!」

いやいやをするが逃げ出そうともがく。だが顎を捕らえられてしまえば逃げることもできない。目を逸らし続けるに先にしびれを切らしたのは政宗の方だった。固定させた彼女の唇に自分のそれを押し当てる。突然重ねられたそれにが慌てる前に彼女を畳に押し付けてのしかかった。

「ん───────────っ!!」

蹂躙される唇に必死で抵抗する。政宗の胸を押して逃げ出そうとするを政宗はさらに強い力で押さえつける。

「い、痛いっ!!や・・・・・!!」

だが女の力には限界がある。あまりの痛みに悲鳴を上げた彼女に政宗はしまった、という顔をして力を弱める。その隙に逃げ出したが真っ赤になった腕をさするのに、ぷいと顔をそむけた。

「悪い」
「痛いよ・・・・・・・・もう・・・・・」
「お前がちゃんと言わねぇからだろうが」
「・・・・・・・香り」
「香り?」
「うん。その香り。毎日違うの。私お香の香りってあまり好きじゃないんだ。だから───────────」
「I see」

本当は香りそのものが苦手ではない。だがこのもやもやとした気持ちはきっと彼に言っても詮無いことなのはわかっている。それにこんな醜い感情は彼にだけは知られたくなかった。ちら、と視線を逸らしての言葉に政宗は気づかないようだった。

「ごめんね」
「いや───────────Sorry」
「ううん。えっと・・・・ごはん、もらってくる」
「ああ」

そう言って立ち上がるのを政宗は止めなかった。そして部屋を出たは心配そうに付き添ってくる八重に小さく首を振って自室へと戻ってから、自己嫌悪に苛まれながら布団にもぐりこんだ。



 結局そのまま眠ってしまったらしく、目が覚めたのはお昼を過ぎた時間だった。あの後、あまりにも戻ってこないを心配した政宗が台所まで探しに行き、普段なら先触れもなくそんなところへとくるはずのない主君のお出ましに女中たちがパニックに陥ってしまったと後で聞いた。ちくり、とした痛みが胸に刺さる。だが彼に詫びようかどうしようかと逡巡しているうちに八重がの様子を見に部屋に入ってきた。

さま、お加減はいかがですか?」
「あ、うん。大丈夫。心配かけてごめん」
「いえ。殿と喧嘩されたのですか?」
「喧嘩・・・・・・・じゃないけど・・・・・・・」
「あら───────────」
「ねぇ八重さん」
「はい?」
「───────────ううん。なんでもない」

が起きだしているのを見て、小袖を用意して着替えている最中に布団を上げる。てきぱきと片付けてゆく八重の背に問いかけようとして、口を閉じる。だが八重はの変化に気付いたようだった。

さま」
「何?」
「愛姫さまがさまとご一緒に琴でもいかがかとお誘いでございます。どうなさいますか?」
「愛姫、が───────────?」
「ええ。さま、体調がすぐれないようでしたら無理なさらなくても結構ですわ。私から愛姫さまへ言上いたします」
「───────────」

気遣ってくれる八重に思わず口を閉じる。彼女にまで気遣わせるほど機嫌が悪いように見えているのだろうか。でも今のこのもやもやは逃げたところで解決するはずなどない。それに愛姫自身が悪いわけではない。むしろ彼女は自分に気を配ってくれているのだ。それがわかってしまうから無言になるしかなかったのだが。

さま、では今日はお身体がすぐれないと」
「ううん。行く。琴でしょ?聞いてるだけだから大丈夫。八重さんごめんね」
「いえ。それでは先触れを出して参ります。その間にご準備を」
「うん」

心配そうな表情を崩さない八重だったが、それでもの意志を尊重して頭を下げて部屋を出る。準備を、と言われはしたが自身はそれほど準備を必要とするわけではない。琴を弾けるわけでもないからそれを準備する必要もないし、そのほかの楽器ができるわけではない。

「何で───────────」

他の側室たちでさえ、琴かもしくはそのほかの楽器を奏でるのを得意としているのに自分は何もできないのだろうか。

「何で政宗さんは私なんかを側室にしたの───────────」

ぽつりと呟いてしまえばもう止まらなかった。愛姫たちとは違い、何の取得もない。美しいわけでも一芸に秀でているわけでも女性としてたおやかであるわけでも、小十郎や綱元、成実のように武勇や政で支えられるわけでもない。異世界から来たただの厄介者に過ぎない自分を『竜の巫女』としてくれたのは政宗だし、側においてくれたのも彼だ。いつの間にか彼を好きになってしまっていたのは自然な流れなのかもしれないが、彼を支える一人になれないもどかしさと愛姫に見せる政宗の優しい表情を思い出すと心が重くなる。

さま、さあ、参りましょう」
「───────────うん」

そのうちに八重が戻ってきて、暗い顔をしているを気遣いながらも告げる。休んで欲しいと言ってもきっと彼女は首を縦に振らないのはわかっているから。そして愛姫の部屋へ到着してが部屋に入ってしまうと、八重は一礼して部屋から出ていった。取り残されたは首をかしげたが、部屋にいる愛姫がぱぁっと顔を輝かせるのに小さく笑う。

「まぁさま、どうなさいました?」
「あ───────────うん、なんでもない」

やはり暗い顔をしているのだろうか、愛姫がを招きよせて顔を覗き込んでくる。すると朝、政宗からした香りと同じものが鼻をつく。一瞬、呼吸が止まるかと思った。政宗が愛した彼女の香り。そう考えるだけで心の中のもやもやが形を作って泣き出してしまいそうで。

「なんでもないはずございません。いかがなさいました?」
「ホント、なんでもないの。それより愛姫、琴を弾いてくれるって」
「ええ。殿がさまと喧嘩をなさったとか」
「───────────別に喧嘩じゃないよ」
「そう、なのですか?」
「うん。ちょっとね、私が落ち込んでるだけだから」
さま、でしたら私にお話しください。女同士でしかできない話もございましょう。私はさまのお力になりとうございます」

すっと白い手がのそれに重なる。綺麗な、まるで白魚のような痣ひとつない、まさにお姫様の手、だった。その手と自分の骨ばった手を見比べて絶句する。一つとして勝てるものがないと改めて意識してしまう。だが心配そうに覗き込んでくる愛姫はそんなの心など知るはずもなく、心底心配している瞳で見つめてくる。だからこそ、何も言えなくなる。

「大丈夫、だよ。ありがとう、愛姫」
「そうですか?もし愛でお力になれることがありましたらどうぞご遠慮なくおっしゃってくださいませ。さまは殿には欠かせない『竜の巫女』さまでございます」
「そう、かな」
「ええ。無論でございます」
「『竜の巫女』だから、私は政宗さんの側にいられるのかな───────────」
さま?」
「───────────ごめん、変なこと言って。愛姫、琴を聞かせて。お願い」
「わかりましたわ。さま、何かご所望の曲はございますか?」
「───────────ショパンが聞きたいな」
「は・・・・・・・い・・・・?」
「ううん。いいの。愛姫の弾きたいのでいいよ」

聞き覚えのない言葉に目をぱちくりさせる愛姫に軽く手を振って下を向く。そんな彼女の様子に諦めたように首を振ると愛姫は愛琴を手に取って奏で始める。それを聞きながら、は自己嫌悪にただ目を閉じるほかなかった。



 一曲終わり瞳を開く。愛姫が弾いてくれた曲の名は知らないが、今の自分の気分を考えてくれたのかしっとりとした曲だった。おかげで何も考えずに聞くことができた。そして瞳を上げて、部屋の外の柱に背を預けている政宗の姿に目を丸くする。

「政宗、さん───────────?」

いつからそこにいたのか、まったく気づかなかった。ちら、と愛姫に視線をやるが、どうやら彼女でもないようだ。政宗は呆然としているをよそに部屋へと入ってきて、愛姫の隣にどっかと腰を下ろす。

「愛、さすがだな」
「お褒めにあずかりましてありがとうございます。それより殿」
「Ah?」
「私よりもさまをお願いいたします」
「え、ちょっと愛姫!?」
さまが落ち込んでいらっしゃるのは殿のことでございましょう?でしたらお二人でお話くださいませ。愛は殿やさまの暗いお顔を見るのは辛うございます」

手を伸ばしてくる政宗ににこりと笑って促すと、政宗はちら、とこちらに視線をやるが、はその視線から瞳を逸らす。そんな二人をじれったいとばかりに愛姫は控えている八重を呼ぶ。

「八重、殿とさまをお部屋へ」
「愛姫!?」
「かしこまりました」
「さ、殿、さま、どうかお二人の時間をお過ごしくださいませ。八重、頼みましたよ」
「はい」

言葉通りに二人を部屋から追い出してぴしゃりとふすまを閉める。まさか愛姫がそんなことをするとは思わなかっただけに思わず政宗と顔を見合わせてしまい、慌てて顔をそむけるに、政宗は小さく息を吐き出した。

「八重」
「はい」
「俺の部屋に床の用意を」
「かしこまりました」
の部屋にいる。準備が出来たら呼びにこい」
「はい」
、Come on」
「・・・・・・・・・うん」

こうなれば仕方がない。そもそもいつまでも逃げているわけにはいかないのだし、今の政宗に逆らうのは自殺行為だ。そうわかるだけの威圧感に頷くと政宗の後ろをとぼとぼとついてゆく。部屋に落ち着いて無言のままの時間が過ぎると、政宗はためていた息を吐き出した。


「───────────」
「お前何を怒ってやがる?」
「怒ってないよ」
「嘘つけ。暗い顔をしやがって。言え」
「ホントになんでもないったら。ちょっと、考え事してるだけで」
「Ah?」

ぴくりと眉を上げた政宗はしばらく押し黙ったままだったが、じっと下を向いたままのの手に自分のそれを重ねる。途端、「やめて」と振り払う彼女に手を止めてにやりと笑う。

「Hum───────────成程」
「・・・・・・・・何が成程、なの?私はただ」
「jealousy、か?」
「───────────」
「さっき様子がおかしかったのは愛に、か?お前にもそんな気持ちがあるんだな」
「お前にもって───────────!」

軽い調子で告げる政宗にかっとなる。まるで馬鹿にした言い方に思わず手を上げたのそれを政宗の手が掴み取る。

「You fool」
「な、何、その言い方!私だって、政宗さんのことっ!」
「落ち着けよ。お前、朝香りがどうのって言ってたな?それ、か」
「───────────っ!?」
「Hum、それでわかった。俺が毎日違う女を抱いてんのが気に入らねぇか?」
「───────────それが悪い!?だって他の人はみんな美人で、綺麗で、愛姫だってあんなに可愛くて・・・・・・だって政宗さん、愛姫と一緒にいた次の日はいつも機嫌がいいし、私なんかいる必要がないじゃない!!」

まるで癇癪を起こした駄々をこねるような言い方だが、政宗につかまれた手を振り下ろす。政宗につかまれている手は彼の胸を叩き、その感触にもう我慢できなかった。声を上げて泣き始めたに政宗は目を丸くする。

「おい、落ち着け・・・・・」
「落ち着けるわけないじゃない!!政宗さんは愛姫の方がいいんでしょ!?私なんかじゃなくて、お姫様の方がいいに決まってるもん!私なんか・・・・・私なんかぁ・・・・・・・」

ぽろぽろとこぼれる涙をふきもせず暴れるの身体を抱き寄せる。だがいやいやをするように身をよじろうとするががちりと抱きしめられて身動きが取れなくなる。そのまま政宗の腕の中で泣き続けどのくらい経ったかわからない。涙が止まるまで抱きしめてやって、落ち着いたの頬に手を伸ばす。


「───────────」
「言っとくが俺はお前以外抱いてねぇぞ」
「───────────嘘」
「嘘じゃねぇ」
「嘘だよ。だってお香が」
「お前、俺がいつもお前の部屋で着物を着替えてんのわかってるだろうが」
「───────────それが?」
「脱いだ着物に香を焚き染めるんだよ。お前以外の奴らはそれをやってる」
「だっ・・・・・・て・・・・・愛姫のあのお香・・・・・・・」
「たまたま前に愛の部屋に置きっぱなしにしてた着物だっただけだ。愛のヤツ、ずっとあの着物に焚き染めてたらしい。アイツ、あの香りが好きらしいからな」
「じゃ、じゃあ機嫌が良かったのって・・・・・・・」
「他の側室ども、閨で俺にねだることしかしやがらねぇ。それをいちいち聞くのも面倒だからな。適当に流してたら怒りやがってぐちぐちと人の枕元で文句ばっか言いやがる。昨日は愛もさっさと寝てしまったからな。俺もゆっくり眠れただけだ」
「って、それって・・・・・・・」
「愛といる日は誰にも邪魔されずに眠れるんだ。機嫌が良くなんのは当たり前だろうが。言っとくが愛と床を共にすんのは出陣の前だけだ。俺が今抱きてぇと思ってんのはお前だけで、お前しかいらねぇ」

耳元でささやくように告げられる声音に目を見張る。彼を信じていないわけではないけれどすぐに認めてしまうのはしゃくで。

「だっ・・・・て・・・・・私なんかのどこが・・・・・・」
「お前は俺と同じだ」
「───────────」
「お前は俺と同じモンを見れる、俺と同じことを感じることができる。お前がいるから俺は先に進める。お前は愛のことを気にしてるようだが、俺にとって愛は守らなきゃいけねぇ民と一緒だ。お前とは違う。お前は俺の選んだただ一人の女だ。自信を持て」
「───────────ぅぅ・・・・・・」

優しい声がしんと心に落ちる。政宗の声はいつもそうやって自分を溶かしてゆく。おずおずと見上げると、隻眼に射抜くような熱っぽい瞳で見つめられる。それは熱を孕んだ男の視線そのもので目が離せなくなる。

、さびしい思いをさせて悪かった」
「───────────うん」
「その代わり今日は寝かせねぇからな」
「───────────うん」
「言ったな。覚悟しとけ」

くつ、と笑う彼の唇が自分のそれに重なる。ちょうどその時だった。部屋の外から床の準備ができたと八重の声がする。そして政宗はの膝の裏に手を入れて軽々と抱き上げた。

「あっ───────────」
「八重、先導しろ」
「はい」
「え、ちょっと・・・・政宗さん!?」
「このままHeavenへ直行だな。Honey」

ふすまを開けてを抱き上げている政宗に軽く頭を下げて先導する八重に慌てる間もなく政宗が歩き出す。我に返ったが政宗の胸を叩いて下ろしてほしいと訴えるが、彼はにやりと笑って言った。

「大人しくしな。俺がお前を抱けない間、どんだけ我慢してたと思ってやがる。毎日毎日愛の元にゃ顔を出しやがって。jealousyはお前だけじゃねぇってことだ」

その声に政宗を見上げたの唇を政宗のそれが塞ぐ。そのぬくもりには力を抜いて彼に身を任せたのだった。



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