小十郎の思いを受け止めたは、小十郎との祝言を挙げることを決めた。翌日、政宗には二人揃って報告をし、政宗はにや、と笑って並ぶ二人に言った。
「Okey、俺が二人の祝言を盛大に祝ってやるよ。で、日取りはいつにする?」
「いえ、まだ方々への挨拶も済ませておりませんので、決まりましたらご連絡させていただきます」
「なんだよ、まどろっこしいな」
「政宗さま、祝言はそれほど簡単なものではございません。親類縁者にも挨拶がございます。すぐにできるものではございますまい」
「おい、だったらいつ挙げるんだよ」
「ですから───────────」
「テメェ、その間を待たせる気か?命令だ。ひと月のうちには祝言を挙げろ」
「───────────かしこまりました」
じろ、と睨みつける政宗に頭を下げる小十郎を横目に見ながら、不安そうな瞳になるを政宗が手招いた。
「」
「何?」
「幸せになれよ」
「政宗さん・・・・・・・・」
政宗の近くまで膝を進めると、政宗の手が頬に触れる。そして告げられた言葉に思わず息を飲み込んだ。
「ありがとう、政宗さん。それから・・・・・ごめんなさい」
「Ah?」
「だって私を側室にって言ってくれたのに、小十郎さんを選んでしまって、ごめんなさい」
「いいさ。俺には愛がいるしな。それよりも小十郎が嫌になったらすぐに俺に言え。すぐにでも側室にしてやる。何せこいつは堅物で朴念仁で甲斐性なしだからな」
「え・・・・ちょっとそれは・・・・・・・」
にや、と笑う政宗に思わず身を引いたを追いかけるように政宗が身を乗り出す。の頬に手を当てたままの行為に、小十郎がすっと動いて政宗の手をつかむ。
「失礼」
そしてから引きはがすと、政宗はぴく、と眉を上げた。
「小十郎、テメェいい度胸だな」
「いくら政宗さまでもはこの小十郎の妻になる女です。無体な真似はおやめください」
「Ha!・・・・・・もう亭主気取りか。ったく、やってられねぇな。メロメロじゃねぇか」
「当たり前です。それからいくら政宗さまでも先ほどのお言葉は聞き捨てなりません。を側室に、などと申されては」
「Ah・・・・・・わかったわかった・・・・・つか、抗議すんのそっちかよ」
呆れたような口調の政宗がひら、と手を振ると、小十郎は先ほど場所へと戻って改まる。そしてきょとんとしているを呼び寄せる。
「」
「は、はい!?」
「お前も俺の妻になるのなら、政宗さまに対してそのような口を利くな。政宗さまは───────────」
「STOP!はそのままでいいんだよ。、直す必要はねぇからな。小十郎、言っとくがはお前に嫁ぎはするが、『竜の巫女』から外すつもりはねぇ。形はお前に降嫁させるだけだ。俺から預かってるということを忘れんな」
「───────────かしこまりました」
頭を下げる小十郎にはいたたまれずに首をすくめる。何より、何故小十郎が自分を選んでくれたのかがいまいちよくわかっていないからなおさらだ。政宗の言い分を聞いていれば、むしろ自分を外に出さないために小十郎が折れたようにも聞こえてくる。それに、昨日小十郎の求婚に頷いてから、彼はすぐに帰ってしまったのだ。普通もう少しロマンティックなことを想像してしまっていただけに拍子抜けもした。だが、今朝早くに迎えに来た彼に抱きしめられたのには驚いたが。
「小十郎、しばらくお前に休みをやる」
「政宗さま!?」
「別にお前に不満があるわけじゃねぇが、執政の任をこなしながら挨拶周りなんてやってたらいつ祝言を挙げるかわからねぇからな。休みをやるから祝言の日取りをさっさと決めろ。必要ならお前の親戚連中を俺の権限で集めてやる。いいな、何よりも祝言を優先させろ」
「政宗さん、あの・・・・そんなに急ぐ必要が」
「ある。祝言を挙げねぇってことはお前はいつまでもただの女、『竜の巫女』のままだ。春になりゃ戦になる。それまでには小十郎のモンだってのを内外に知らしめる必要がある。外の連中に付け入る隙を与えんな。いいな?」
「承知いたしました」
下がれ、とばかりに手を振る政宗に頷いた小十郎が立ちあがり、目を丸くしたの腕を引く。自然ぐいと引き上げられる形になって体勢を崩すの腰を引き寄せて小十郎は彼女の身体をひょいと抱き上げる。
「こ、小十郎さんっ!?」
「Shit・・・・・・・・」
「では、御前失礼いたします」
逃げ出そうと不安定な体勢で暴れようとするをしっかりと固定したまま小十郎が何にもなかったかのように頭を下げる。抗議の声を上げるは完全に無視したまま背を向けた小十郎に舌打ち一つ。政宗はたった一日で変わってしまった右目の態度にやってられないと匙をまとめて投げ出した。
を抱いたまま廊下を歩く小十郎に、すれ違う家臣たちや女中が目を丸くする。恥ずかしくなってうつむいてそれをやりすごすと、人気のなくなった廊下でがちら、と視線を上げて猛抗議を始める。
「小十郎さん!私一人で歩けますから!」
「奥州の冬は寒いって言ったのはお前だろうが」
「で、でも!これだって寒いです!!だから」
「だったらこっちの方がいいだろう?」
「何でですかっ!?」
「俺が暖かい」
あっさりと告げられた一言に絶句する。彼がそんなことを言うとは思わなかったから。口を開けたままぽかんとした表情になったにくつ、と笑ってから小十郎は悠々と喜多の部屋へと向かった。
姉はちょうど部屋に戻っていた。この時間、休みが取れる、と以前に聞いたことがあったが、もし彼女がいなければ勝手に待たせてもらおうと思っていたが、そんな心配は不要のようだった。を抱いたままの弟に目を丸くして中へと招き入れれば、小十郎は平気な顔のままようやくを下ろしてやると、彼女は顔を真っ赤にして小十郎を睨みつける。
「小十郎さんのバカっ!!」
「───────────小十郎、そこにお座りなさい」
の言葉と完全に呆れた姉の言葉に小十郎は逆らわずに座ると、喜多に対して手をついた。
「姉上。との祝言のお許しをいただきたく参りました」
「その前に・・・・・さまより何か申されたいことがあるのではありませんか?」
「そりゃ、あります、けど・・・・・・・・」
「でしたら、お先にどうぞ」
「って・・・・・そう言われたら言いにくいんですけど・・・・・・」
「では私からお伺いいたします。さま、本当にこの愚弟でよろしいのですか?今ならまだ間に合いますわ。殿のご側室におなりになるか、ほかの方のお申出をお受けいただいてもよろしいんですのよ」
「姉上!!」
にこりと笑って告げる喜多に思わず頬が引きつった。小十郎を横目で見上げれば鬼もかくや、の表情で喜多を睨みつけていては思わずひとりごちる。
「───────────相変わらず喜多さん、容赦ない・・・・・・」
「でしたら小十郎、あなたの気持ちをちゃんとさまにお伝えしたのですか?あなたはいつも言わなくても心は伝わるなどと言いますが、私はそうは思いません。さまは唐突なことに驚かれたのではありませんか?」
「そ、それはまぁ・・・・・・」
「ほらごらんなさい。小十郎、この姉が見ていてやります。ちゃんと自分の気持ちを伝えなさい」
「・・・・・・・・いえ、見ていられると言いにくいんですが」
「そう言ってちゃんと向かい合わなかった挙句、蔦を死なせたのはあなたですよ」
喜多の言葉に思わず小十郎が眉を上げ、は思わず顔を上げた。小十郎は納得いかない、という表情だが、ふぅと息を吐き出してに対面する。
「」
「は、はい!?」
「俺はお前を、好いている」
「・・・・・それは・・・・・・ありがとう、ございます・・・・・・・」
「だから俺の妻に欲しいと思った。政宗さまを差し置いても、だ」
「うん・・・・・・」
「、俺の妻になってほしい」
「う、うん。私こそ、よろしくお願いします」
真剣な小十郎の表情に吸い込まれそうになる。熱っぽい瞳。あぁ、この人は本当に私のことを好きになってくれたんだ、とわかる何よりも雄弁な証。だからは何も言わずにそう言った。その二人に喜多は小さく息を吐いてからまぁいいでしょう、と呟いた。
「小十郎、いいですか、さまを妻に迎えた後、さまを泣かせたらこの姉が容赦いたしませんよ。その時は姉弟の縁を切ります。わかっていますね?」
「・・・・・・姉上、そんなに俺は信用ありませんか」
「当たり前でしょう!お前には前科がありますからね」
「約束いたします。を泣かせるようなことは致しません。必要でしたら証文でもなんでも書きましょう」
「さま、本当によろしいのですね?」
「はい。喜多さん・・・・・ううん。お義姉さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
最後の確認とばかりに念を押す喜多に手をつくと、彼女はにこりと笑っての手を取った。それを見ながら小十郎が口を開く。
「───────────姉上、お願いしたい儀が」
「本家への橋渡しですね。この姉にお任せなさい。この雪ですが数日中には連絡が取れましょう。祝言はいつにするのですか?」
「できるだけ早く。政宗さまからも最優先だと下知がございました」
「そう、ですか、わかりました。そのつもりで準備いたしましょう。さま、これから忙しくなりますよ。お覚悟はよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
「さま、お礼を申し上げます。よくこの弟を選んでくださいました。姉として本当にお礼を申し上げます」
「喜多さん・・・・・・」
「嬉しいですわ。さまのような可愛い方の義姉になれるなんて。これからは私たちは姉妹です。小十郎に何か不満があるときはいつでもこの義姉を頼ってきてください」
「はい。そうさせていただきます」
手を握ったまま告げる喜多にも笑う。そんな二人を見つめたまま、もしかしたら自分にとって勝てない女がもう一人増えたのではないだろうか。小十郎は諦めにも似た小さな溜息を洩らしたのだが、それは部屋へと消えていった。