真田幸村が加わって五人になった道中だが、彼は佐助や政宗、小十郎とは普通に話をするのに、政宗と同じ馬に乗っているにちらちらと視線を走らせては頬を真っ赤にして視線を逸らしてしまうのにはどうにかしてほしい、と思う。女性に免疫がないというのは見ればわかるが、それにしても限度というものがあるだろう。それでも話をしなければ歩み寄ることもできないため、は意を決して幸村に声をかける。
「あのぅ」
「殿、な、何でござる!?」
「真田さんって政宗さんとはどういう関係なんですか?」
「Ah・・・・・・・」
「それはでござる!」
にとっては至極普通の質問だったのだが、途端、身を乗り出すようにしてくる幸村に思わず身体をのけぞらせる。軽い気持ちで質問しただけなのだが、これほど勢いよく食いついてくるとは思わず、自然重心がずれてバランスを崩しそうになるのを、政宗の腕で支えられる。
「、暴れんな」
「ご、ごめんなさい」
「おい真田、は俺の側室だ。変な真似すんじゃねぇ」
「拙者は、は、破廉恥なことはしないでござる!」
「破廉恥破廉恥って、ったく、餓鬼じゃあるまいし」
そういいながら抱きしめたの頬に唇を寄せて軽く口づける。突然のことに「政宗さん!」と怒るに対してはにやにやと笑うだけだったが、それを直視してしまった幸村は、というと予想通り顔を真っ赤にして「破廉恥でござるぅぅぅぅっ!!」と叫び、佐助はやれやれと言いながら馬上を見上げてくる。
「ちょっと独眼竜、あんまり真田の旦那で遊ばないでくれる?」
「Ah?」
「絶対面白がってるでしょ。真田の旦那は女性への免疫ないんだからさぁ」
「だからそれをつけてやってんじゃねぇか」
「余計なお世話だっての。それからちゃんもあんまり旦那をいじめないでよね」
「は、はぁ・・・・・・・」
じろと見上げてくる彼に適当に返事を返す。いじめている覚えはないが政宗が面白がっているのはわかる。だからわざと自分を抱きしめたりキスを仕掛けてくるのはわかっているが、何で私まで、という声が出かかるのを飲み込んだ。ここで自分が何を言っても始まらないのはわかっているからだ。結局政宗と幸村の関係を聞きそびれてしまったので後で小十郎に聞いてみようと思う。多分彼ならちゃんとした答えを返してくれるだろうから。
「猿飛、ここから甲斐の虎のいる城まではどのくらいだ?」
「そーだねぇ、まぁあと半日ってとこかな」
「何を申す!佐助!!某とそなたの足であればこのくらいの距離、二時もせず駆けてやるわ!うぉぉぉ!待っていてくだされ!お館さぶぁぁっ!!」
助け舟の代わりだろう。小十郎が馬を寄せてくるのに軽い調子で佐助が答えてやる。そうか、と軽く顎を引くように答えた小十郎だったが、その二人の会話を聞いていたのだろう、幸村が佐助につかみかかるような勢いで身を乗り出して叫び声をあげて手綱を取る。そのまま走り出しかねない彼に佐助は慌てて声をかけた。
「何言ってんのよ、旦那!ここにはちゃんもいるんだからね。独眼竜と右目の旦那だけならともかく、女の子に無茶させるわけにはいかないでしょ!」
「そ、そうでござった・・・・・・。殿、申し訳ござらぬ」
ぴしゃりと告げた彼に途端、しゅんとなってしまう。まるで大きな犬のような仕草には目を白黒させる。一体この二人はどういう関係なのだろう。政宗と幸村の関係もだが、佐助と幸村の関係もイマイチよくわからない。単純に見れば何かあるたびに佐助にたしなめられている幸村は少年のまま身体だけが大きくなってしまったようにも見えるのだが。
「い、いえ別に私は・・・・・・」
素直な謝罪に首を振る。会ってそれほど経っていないのに、彼の裏表のない性格には好感が持てる。思ったことを口に出しては佐助にたしなめられているが、一向に懲りるということを知らないらしい。そのたびに「やれやれ」と首を振る佐助に軽く同情をしてしまいそうにはなるが。
「あと半日か。やれやれやっぱり甲斐は随分遠いな」
「左様でございますな」
そんな幸村と佐助のやり取りなど我関せず政宗が小十郎に向かって告げる。穏やかな表情のまま答える小十郎はといえばやはり真田主従のやり取りに感心を示すわけでもない。その二人をちら、と見やって佐助が口を開いた。
「で、二人はお館様に会って何をするつもりなの?」
「おぉ、それは某からもお聞きしたいでござる!」
「別に。ただ俺はを連れてきたかっただけだ。虎のおっさんに会うだけは会うがな」
「へぇ?」
意外そうに眉を上げる佐助ときょとんとしている幸村に政宗は特に取り合うこともしない。探るような瞳になる佐助に向かって政宗は軽く顎をしゃくる。
「それ以上のことは小十郎に聞きな」
「ま、それもそうだね」
それだけを告げる政宗にこちらもあっさりと両手を上げてみせる。それがポーズなのか本心なのか、などは見ていてもわからない。だがその言葉を受けた小十郎は表情を変えないまま。暗に何かあるのではないかとも取れる仕草には無言のままこの件についてはタッチしないようにしよう、と思う。そもそも自分はこの世界のことについては素人も同然なのだ。それに実際軍師である小十郎が何かをしようとしているのなら邪魔をしてはいけないとも思う。それは政宗が小十郎に任せると決めたことだから自分が口を出すことではないと思ったからであったが。
「そうと決まればお館様の元へ急ぐでござる!某、先に行ってお館様にお伝えしてくるでござる!!」
「って旦那!!先行っちゃだめだって!!って・・・・・あ〜あ・・・・・行っちゃったよ」
「Hum、相変わらずせっかちな野郎だな」
「まぁねぇ。つか、先に行かせたの独眼竜じゃん」
「Ah?俺は何もしてねぇだろうが」
「そう仕向けてるでしょうが」
「それは俺じゃねぇ。小十郎だろ」
「政宗さま」
責任をなすりつける二人に小十郎はやれやれと首を振り、は思わず小十郎に同情の眼差しを向ける。そもそもこの甲斐行きは政宗から言い出したことなのに、面倒なことはすべて小十郎にまかせっきりだ。宿の手配、街道の選択、荷物の運搬など、一緒に旅をしていても小十郎の忙しさは政宗のそれと比べものにならない。彼自身は負担に感じているようには見えないが、実際のところどうなのだろうか。だが小十郎の表情は動かないまま。それどころかどこかたしなめるような視線を向けられては話題を変えようと視線をそらす。
「あの、猿飛さん、さっきから話に出てくるお館様って誰のことですか?」
「は・・・・・・?」
の言葉に佐助がらしくもなく動きが止まる。
「チャン・・・・・・本当にうちのお館様のこと知らないの?」
「え・・・・・・・?」
じろ、と見上げた佐助の視線が探るようなそれに変わる。しまった、と思ったが遅かった。慌てるに佐助はじっと彼女を見つめたまま告げる。
「本当に知らないのなら、チャンは今までどこで何をしてたのか疑いたくなるね。『竜の巫女』さまは天から落りて来たってホントだったんだね」
淡々と告げる声音に背筋が凍えた。佐助から視線を逸らそうにもなぜかそうすることができなくなる。何とかして声を出そうとするの腰に政宗の腕が回る。
「『竜の巫女』は俺を守護するために天から降りてきたんだから俗世のことを知らなくても当然だろ?なあ小十郎」
「そうですな」
「まぁ、後でしっかりと俺が教えておいてやる。なぁ」
大丈夫だ、とばかりに支えられる身体のぬくもりに顔を上げる。だが、いたずらっぽく笑う政宗の左目にはええと、と逡巡するように視線を逸らした。こういう瞳をするときの政宗にはあまりいい記憶がないからではあるが、口ごもるに政宗はくつくつと笑う。その二人を見ながら佐助は探るような視線を小十郎に向ける。だが彼は無言のまま表情を動かすこともしない。「さすが軍師ってとこだね」と口中でつぶやいて、佐助は軽く肩をすくめて歩き出した。