美緒に聞いてみると、彼女はちょうどホームページの作り方を勉強している最中ということで、彼女に頼んで作ってもらうことになった。デザインは私がやれ、と言われていたんだけども、彼女と相談しながら、トップページにどれを持ってきて、リンクはどれを貼って・・・・など、専門用語に私は右往左往することになったけど、1か月近くかけて出来上がったホームページは我ながら会心の出来だった。カフェのみんなにも見てもらい、いい出来だと褒めてもらった。もちろん、小十郎にも見てもらい、一番喜んでくれたのは彼だった。そんな彼の笑顔に私は頑張ってよかった、と嬉しくなった。それに、もう一つ───────────。
「、来週空いてるか?」
「え?うん。カフェのお休みの日なら」
月例の報告書を届ける日。小十郎のマンションで彼が淹れてくれたカフェオレを飲みながら報告書に目を通す小十郎を見つめる。私は結構この瞬間が好きだった。真剣な彼の目。じっと深く考える小十郎の瞳は仕事をする男の目、って感じで私はそれをじぃっとみているのが好きだった。そんな私をちら、と見て小十郎がそう言った。
「だったらどっか行かねぇか?」
「あ、うん!行きたい!」
「行きたいとこあるか?」
「ん〜、遊園地とか、ダメかな?」
きっとダメだろうな、と思いながら彼に告げる。彼はあんまり子供っぽいものを好まない。それはこの部屋を見れば一目瞭然だったけど。反対されるのがわかってはいたけど、一度小十郎と一緒に遊園地に行ってみたかった。いつもデートといえば、買い物がメインで車はもっているけどドライブに連れていってもらったこともないし、長時間一緒にいたこともない。それはすべて彼が大切にしているという『坊ちゃん』に呼び出されるからだった。今までもずっとそうだった。小十郎のいう『坊ちゃん』はいつも私たちの邪魔をする。今日は一日大丈夫、と言っても夕方には呼び出されて、私はいつも小十郎とのデートを中断させられてしまっていた。だから丸一日、彼を貸切にしたいと思うのは彼女であれば当然だと思ってしまう。
「遊園地か、いいぜ」
「え!?ホント!?」
「ああ。で───────────、よかったら泊まらねぇか?」
「───────────え・・・・・・」
あっさりと頷いた彼に逆に私がびっくりした。しかも二つ返事で言ってくれるとは思わなかった。でもそれ以上に驚いたのは、そのあとの言葉だった。小十郎のマンションに上がりこむことはあっても、私たちはキス以上のことはまだしていない。小十郎は夜遅くなると私を車で送っていってくれたり、二つある寝室で別々で休んだりしていたから。思わずぴたりと止まった私の手に小十郎がそっと自分の手を添えてくる。
「俺とじゃ、嫌か?」
「ううん、嫌じゃ、ない・・・・・・」
「体調がよけりゃ、だが。考えといてくれ」
本当のことを言うと、今すぐでも私はOKだった。小十郎となら、してもいいって思ってた。私はまだ本当の意味で男を知らない。だから初めて、なのだ。でもその初めてを小十郎としたかった。それだけ私は彼のことが好きで、ずっと一緒にいたいと本気で思っていたから。
「・・・・・・行きたい」
「」
「小十郎と一緒に行きたいし、お泊りしたい。泊まるってあの・・・・・そういうこと、だよね?」
「ああ」
きっと私の顔は耳まで真っ赤になっているんだろう。私の手に触れていた小十郎の手が首から頬を撫でてじっと私の目を覗き込まれる。小さく頷いた私に、小十郎の瞳がふっと優しく和んだように見えた。
「あの・・・・ね・・・・・・幻滅しないで欲しいんだけど・・・・・・・私、初めて、だから・・・・・・・」
「───────────そうか」
「うん・・・・・・・」
「だったら、俺が教えてやるよ。お前を俺だけのモンにしてやる」
にや、と笑う彼の顔は本当に男らしくて、私は思わず彼に抱きついていた。「おいおい」と驚いたような声を上げる彼をぎゅっと抱きしめる。
「小十郎、大好き」
「、あのな・・・・・・」
「何?」
「あんまりそういうことをするな。我慢できなくなるだろうが」
「───────────え?」
「好きな女を目の前にして、抱きたいと思わねぇ男がいるか。今までもずっと我慢してるんだ」
「じゃ、もし今日私がOKって言ったら」
「だから、やめろ。抱きてぇが、初めてならなおさら大事にしな。来週ゆっくり時間をかけて、お前を女にしてやる」
直接的な言葉に私は真っ赤になってうつむいた。背を撫でられる小十郎の手はとても気持ち良いけども、時々直接手が触れるだけで私は恥ずかしくて顔が上げられなくなる。何をするのか、は知識としては知っていたけど、本当にあんな恥ずかしいことをするのか、と考えるだけで顔から火が出そうになる。
ちょうどその時だった。小十郎のポケベルが音を立てたのは。私から手を放してポケベルを確認する彼が小さく息を吐いたのを私は見逃さなかった。
「呼び出し?」
「ああ。ちょうどいい。、送ってってやる」
「うん。でも来週、本当に二人で遊園地行ける?それに、お泊りも・・・・・」
「大丈夫だ。来週は合宿でいらっしゃらないはずだ。いつもすまねぇな」
「ううん。わかってたことだからいいの。じゃ、荷物取ってくる」
「ああ」
小十郎の車でマンションまで送ってもらい、私は急いで部屋に入って箪笥を開けた。小十郎とのデート、しかも二日間彼と一緒。それに・・・・初めての・・・・・。かわいい下着を持っていたかどうかチェックして、さっそくその日の洋服を選び始める。別に今やらなくてもいいとわかっているのに、嬉しすぎてじっとなんてしてられなかった。納得のいくものがなければこっそりと買いにいかなきゃ、と考えながら、私はふわふわとした気持ちでつい夜更かしをしてしまった。
それから3日経った。私たちが作ったホームページは昨日から無事公開されているらしい。学校のホームページ(があったらしい)にリンクも貼ってもらい、来客数(ホームページのだそうだ)も上々だ、と美緒は喜んでいた。お店は、といえばあまり変わり映えはしなかったけど、一人、そのホームページを見て立ち寄ってくれた客がいた。彼女は、この街で美容院を開いていると言って、ちょうど誰もいない時間、私が話し相手になっていた。
「あ、駅前のあそこですか?」
「ええ。そう。もしよかったら髪切りに来てね。私の紹介だと言えば、サービスしてあげるから」
「わぁ、ありがとうございます」
「それより・・・・・あのホームページ、どこかの業者に頼んだものなの?」
「いいえ。私と、もう一人のスタッフで作ったんです。自前ですよ」
「あら、そうなの?・・・・・・もしよかったら、うちのも作ってくれないかしら?もちろんちゃんとバイト代は払うわ。ホームページの作成の業者は高いだけで、こちらの言うことをなかなかやってくれなくて困ってるの」
「そんなもの、なんですか?」
「ええ。どうかしら?」
「ちょっと聞いてみないと何ともなんですけど」
「それでいいわ。もしやってくれるのならここに連絡をしてちょうだい。それにこのカフェ気に入ったわ。また来るからその時にでも答えを聞かせてくれると嬉しいわ」
「あ、はい」
頷いた私にその女性は名刺を一枚置いて料金を払って帰っていった。私は早速美緒に相談して、結局引き受けることにした。そして彼女が私たちのお客様、第一号になった。完成までに2か月近くかかったけれど、彼女は完成品にとても喜んでくれた。この時、私と美緒はもしかしたらこれが仕事になるんじゃないか、と思い始めていた。まだホームページ作成の会社はそれほど多くない。調べてみたら女性が好むようなデザインをやっている会社はごく少なくて、私たちは少しずつ、未来に向けて希望を持ち始めていた。