華やかなショー、きらびやかなパレード、そしてさまざまなアトラクション。私は夢心地でパークを満喫していた。ついてくる小十郎は時々苦笑してはいたけれど、私の手をずっと離さずにいてくれた。ナイトパレードまでを堪能して私は人ごみに紛れないように、と後ろから腰に回されている小十郎の腕に安心する。ちら、と見上げれば彼は何だ、とばかりに見下ろしてくる。ううん何でもない、と呟けば小十郎はくつ、と笑って私の耳元に唇を寄せた。
「そろそろ行くか」
「───────────っ」
その声が艶めいて私の耳朶に響く。思わず息をのんで見上げると、彼の瞳がじっと私を見下ろしていて、私は彼の目にくぎ付けになった。目を離そうにも離れない。ああ男の人のセクシーってこういうことを言うんだ、とどこか他人事で思う。抱きしめられている腕は明確な意思を持って私の腰にまわって、小十郎が何を求めているのかがわかる。
「?」
「・・・・・・・うん」
「心配するな。俺に任せておけばいい」
「うん・・・・・・・」
ぽん、と軽く腰を叩かれて頷くと、小十郎はふっと笑って私の腕を自分のそれに絡ませた。普段は恥ずかしいから、という理由で手をつなぐだけなのに、こんなことをしてくるなんて。それもこれもこのパークの威力なのだろうか。
そして私たちはパークを一度出て、小十郎が予約してくれているホテルにチェックインした。荷物は昼のうちにパークの入口に預けていれば部屋まで運んでくれるサービスにお任せしていたので、私は手荷物だけを持っていた。ポーターが部屋まで案内してくれてはいたけど、私は緊張して何を言っていたのかがわからない。部屋に到着して彼が出ていくと、小十郎は一度部屋を見回してくつ、と笑う。
「さすが───────────いい部屋だ」
「・・・・・・う、うん・・・・・・・」
寝室とリビング。俗に言うスウィートルームだった。そんないい部屋に初めて入った私は思わず固まった。一体小十郎の知り合いってどういう人なんだろう。私は興味本位にこのホテルの1泊の料金を調べてみたことがある。何の変哲もないツインが大体3〜4万円前後。パークに隣接しているホテルということもあって少し高めの料金だった。正直この部屋だけで私の1か月の生活費ぐらいはかかってしまいそうで、そんな私を小十郎はゆっくりと抱きしめる。
「小十郎・・・・・・?」
「疲れてるだろ?シャワー浴びて来いよ。それともバスタブに湯をためてゆっくり浸かってくるか?」
「あ・・・・・うん・・・・・・・」
生返事を返して窓際に視線をやる。ちょうどパークの閉園時間。沢山の人が一斉に出口に向かい、ひとつひとつ照明が落ちてゆく。それを視線で辿る私に小十郎は笑って言った。
「じゃ先に浴びてきていいか?」
「あ、うん。どうぞ」
どくん、どくん、と高まる鼓動を隠そうとうつむいたまま告げると、小十郎は私を抱いている腕を緩めてシャワールームへと向かっていった。しばらくしてシャワー音が聞こえてくると、私はおろおろと部屋の中を歩きまわった。逃げ出したい、という気持ちと小十郎に抱かれたい、という気持ちの間で落ち着かない。ちら、と覗き込んだ寝室は二つのダブルベッド。そこで今日彼に抱かれるんだ、と思わず息を飲み込んで、視線を引きはがすと備え付けてある冷蔵庫を開けて中にあるオレンジジュースを取り出した。後でお金は払うから、と言い訳をして収納してあるカップに注いでテレビをつける。ちょうどニュースをやっている時間。見るとはなしに画面を眺めていると、ガチャ、と音がして小十郎がシャワールームから出てきた。バスローブに湿った髪。小十郎の部屋に泊まったことはあったから始めて見るわけではなかったけれど、どきん、と心臓が音を立てて真っ赤になった顔のままうつむいた。
「、入ってこい」
「う・・・・・うん・・・・・・・」
「湯船につかってゆっくりしてこい。待ってる」
「───────────うん」
湯上りの小十郎からふわりとボディソープが香る。面倒だから、という理由で備え付けのものを使っているんだろう。いつもと違う香りにくらりとする。頷いて着替えを持ってシャワールームに入ると、私はバスタブにお湯をため始めた。さすがスウィートルーム。バスタブとは別に身体を洗うスペースが取ってあり、トイレも別になっている。ゆっくりしてこい、と言ってくれた小十郎の言葉に甘えて私は一日歩き回って疲れた身体をお湯の中に沈めたのだった。
お風呂から出ると小十郎はビールを空けていた。ソファに座ってテレビを見る彼は二つしか違わないのにとても大人に見えた。見るとはなしに見ていたんだろう。私が出て行ったことがわかるとテレビを消してこちらを見てふっと微笑む。その笑みにくぎ付けになりそうになりながら慌てて視線を時計にやれば1時間以上が経過していて、面食らう私に小十郎は笑って首を振った。
「ゆっくりできたか?」
「うん」
「そうか。良かったな」
「うん・・・・・・・・」
待っていたとわかる態度なのに、小十郎は私をせかさなかった。そのまま基礎化粧品をつけ、髪を乾かし終わって手持無沙汰になった私を小十郎が手招いた。
「こっちに来いよ」
「───────────うん」
ごく、と自分が唾を飲み込む音がやけに響く。逆らわずに小十郎の側に寄ると、頬に手を当てられて彼を見上げる。じっと覗き込んでくる彼の瞳が熱を帯びて、近づいてくる彼の顔に瞳を閉じると、唇が重ねられる。
「っ・・・・ふ・・・・・・・・」
触れるだけではなく、小十郎の舌が私の唇を割って中へと入ってくる。それを受け入れるように少し唇を開くと、彼の舌は私の舌に巻きつくように触れあうのを合図のように腰を引き寄せられる。喉の奥まで嘗め尽くされるようなディープキス。ここまでのキスは初めてだった。最初は恥ずかしいと思っていたけど、チュ、と淫靡な音が耳に響き、吐息さえも奪われるくらいに貪られる。そのうちにだんだん頭がぼぅっとしてくる。その時には私の身体は小十郎に密着してしまっていて、唇が離れると私は完全に息が上がってしまっていて、くらくらとする頭のまま見上げると、小十郎はくつ、と笑って、有無を言わせずに私の身体を抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこに私はびっくりしたけれども、それどころじゃなかった。小十郎が向かっているのはベッドルーム。ダブルベッドの上に下ろされて、小十郎の大きな身体が覆いかぶさってくる。どくん、どくん、と跳ね上がる心臓の音が聞こえたのか、彼は笑って私の頬にキスをする。
「───────────」
「小十郎・・・・・・・ぁっ・・・・」
頬から唇に彼の唇が動いて先ほどと同じようなディープキス。さっきの余韻なのか、あっという間に緊張している身体中の力が抜けていく。そうしながらも彼の手は私のまとっているバスローブの合わせをくつろがせてゆく。肌に空気が当たる感覚に私は思わず身体をこわばらせる。
「なんだ、下着つけてんのか」
「そ、そりゃ・・・・・・・」
普段は風呂から上がったらショーツはともかくブラはつけないけど、今日は別だった。さすがにすぐに素肌をさらすのは抵抗がある。でも小十郎はそんな私の姿をじっと見つめてくる。あまりにも恥ずかしくて手で隠そうとすると小十郎に遮られる。
「隠すなよ。ちゃんと見せろ」
「い、いや・・・・・・」
ふる、と首を振って目で訴える私に小十郎の顔から笑みが消えた。真剣な顔になる彼にふると身体が震える。だけどそんな彼の表情がとてもカッコよくて、熱を帯びた彼の瞳はまるで獲物を目の前にした猛獣のように私を捕らえていて、私は逃げられないまま、動けなくなった。