終わった後───────────。けだるい身体を横たえる私を小十郎はぎゅっと抱きしめてくれた。熱っぽい肌と肌が触れる感触が気持ちいい。まだ浅く息を継ぐ私の背中を小十郎の手が優しくなでる。

「すまねぇ、無理させたな」
「───────────ううん。嬉しい」
?」
「私、小十郎のものになったんだね」
「───────────ああ」
「決めてたから。私、初めては小十郎とがいいって。だから、嬉しい」

抱きしめられたまま呟くと、小十郎が息を吐き出した。何か彼の機嫌を損ねるかと思ったけどそれは違った。抱きしめられたまま背中をベッドに押し付けられて、熱っぽい瞳で小十郎が私を見下ろしていた。

「煽ったのはお前だからな」
「え・・・・・あの、小十郎・・・・・・?」
「身体を繋げた後にそんなことを言われちゃあ、我慢できるわけねぇだろ」
「───────────ぁっ・・・・・!」

そのまま一糸まとわぬ私の首筋に唇が落ちてちく、と痛みを感じる。顔を上げた小十郎を見上げると、彼はく、と笑って私の額を撫でた。

「お前は俺のものだという証拠だ」
「何、したの?」
「鏡を見てみろ。だがその前に───────────」
「え・・・・・・ぁっ・・・・!?」

ハテナを貼りつかせる私に笑って小十郎はむきだしになったままの胸にキスを落とす。与えられた刺激にまだ最初の余韻が残っている私の身体はやすやすと反応してしまい、そのまま二度目を許してしまった。



 どのくらい時間が経ったのかわからない。結局小十郎に抱かれ続け何回かと数えることも忘れてしまうぐらいに喘がされ、最初は痛かったあそこの痛みも今はもう痛みよりも快感を感じてしまう自分の身体が恥ずかしい。気が付けば私はそのまま眠ってしまったようだった。部屋の中の声に目が覚める。動こうとすれば身体中を駆け抜けるだるさと下腹部の痛みに逆にぼうっとしていた頭がすっきりとしてくる。隣に手を伸ばすと、そこには小十郎はいなかった。まだ温かいシーツは彼が抜け出してそれほど時間が経っていないことを知らせてくる。そして私の耳は低く響く彼の声を捕らえていた。その声がする方へと私はゆっくりと首を彼へと向けた。

「───────────はい、はい、わかっております。必ず戻ります」
「小十郎・・・・・・?」
「───────────さまも他の方にご迷惑などおかけにならぬよう・・・・・」

電話の向こうは、どうやら小十郎の大切な坊ちゃんのようだった。小十郎がそう言うと、何やら文句を言っている声が小さく聞こえてくる。だけど小十郎は我慢強く聞いてから、今日には戻ると伝えて電話を切る。途端、ふぅと息を吐き出した彼が私が目を覚ましたのを見て、ベッドに戻ってくる。

、目が覚めたか?」
「うん・・・・・・・・」
「身体、大丈夫か?」
「いろんなところが痛い」
「───────────まぁそうだろうな」
「それよりも、呼び出し?」
「いや、ただの愚痴だ。気にするな」
「するよ・・・・・行かなくていいの?」
「今はお前が一番大切だからな」

さらりと言われた言葉に息をのむ。初めてだった。小十郎が私を優先してくれたのは。多分動けない私を思ってのことで、合宿中の坊ちゃんが何を言っても帰ってこられないとわかっているとしても嬉しさに思わず泣きそうになる。小十郎はそんな私の頬に手を当てて慰めるようにすると、私の横に身体を滑り込ませる。

「いいから寝てろ。無理して起きなくていい」
「・・・・・・・・うん。ねぇ、今、何時?」
「8時だ。朝食はルームサービスを取ったからもう少ししたら来るだろ。それまで寝ていろ」
「小十郎」
「何だ?」
「大好き」
「───────────あぁ」

動けない身体を少し持ち上げて小十郎の頬にキスを落とすと、彼は笑って私を抱きしめた。そうしてルームサービスが来るまで私たちは抱き合っていた。

食事を済ませて痛む身体を引きずってお手洗いに入った私は便器に座り、下腹部の痛みに立ち上がって───────────、思わず絶句した。タンクにたまる真っ赤な血。生理なんかじゃない鮮血。思わず悲鳴を上げた私に小十郎が駆け込んでくる。

「おい!どうした!?」
「・・・・・・こじゅ・・・・ろ・・・・・・血が・・・・・・」

呆然とする私を後ろから抱きしめた小十郎がタンクをちら、と見て何も言わずに水を流して、耳元で安心させるようにささやいた。

「心配するな」
「だっ・・・・・て・・・・・」
「お前が女になったってことだ」
「───────────え・・・・・・・」
「処女膜が破れると血が流れ出すことがある。昨日ずっとお前を抱いていたからな。もうちっと早くに気付いてやれば良かった」
「病気、とかじゃないの・・・・・?」
「ああ。お前がちゃんと俺に抱かれて女になったっていう証拠だ。いいから、横になれ」

小十郎の言葉に何も知らなかった自分を恥じた。本当なら私が知っていなきゃいけないこと。真っ赤になる私を小十郎は軽々と抱き上げてベッドに運ぶ。

「痛いか?」
「・・・・・・・・だい、丈夫・・・・」
「じゃねぇだろうが。今日は遊園地はお預けだな」
「え!?」
「『え』じゃねぇ。お前の身体の方が優先だ。それに、また来ればいい」
「・・・・・・いいの?」
「当たり前だろ」

ベッドに下ろされて抱きしめられる。ずっと甘やかしてくれる彼の声がけだるい身体にじんと響いてきて、私はたまらずに彼に抱きついた。小十郎が好き、その気持ちが止められない。そう、この時は、こんな甘い時間に終わりがくるなんて思わなかった───────────。



 それからも私と小十郎は順調にデートを重ねていった。会うときには必ずと言っていいほど小十郎に求められ、私の身体は彼の好みに開発され私の知らなかった世界は小十郎によって開かれていった。そんな付き合いが約1年ほど続いた頃だった。

私と美緒、そして美緒が紹介してくれたもう一人のスタッフと念願の会社を起業した。資金は私の両親に借りた。でもオフィスがある訳じゃない。パソコンがあればできる。一人暮らしをしているのは私だけだったから、私の部屋がオフィス替わりになった。自然と小十郎が私の部屋に来ることも減った。でもそれが寂しいとは思わなかった。だって始めたばかりの会社はびっくりするぐらい順調だったから。私は小十郎に夢中になったように、会社に夢中になった。

小十郎との約束よりも会社を優先させた。すっぽかしたことも一度や二度じゃない。でもその頃には小十郎も例の坊ちゃんのお世話が忙しくなっていた。どうやら中学受験が間近になり、彼もそちらで手一杯だったからだ。でもそんな中、私は彼との久しぶりのデートに浮かれていた。今日は私の誕生日。日付が変わってすぐ、私の家の電話が音を立てて「今日誕生日だろ?付き合えよ」と唐突に告げた彼に、私はあきれて言った。

「ねぇ、その前に誕生日なら何か言うことはない訳?」
『アァ?』
「ふつう誕生日って歌を歌ってくれたりするんじゃないの?」
『できるか、バカ』
「人の誕生日にバカはないでしょ!?」
『るせぇなぁ・・・・・・・、誕生日おめでとう』
「───────────うん、ありがと」

電話の向こうで『仕方ねぇなぁ』と溜息をついたのは聞かないふり。でもあの小十郎が「おめでとう」って言ってくれるとは思ってなかったから嬉しかった。ううん、それ以上に私の誕生日を小十郎が覚えていてくれたことにびっくりした。

『で?、今日は付き合えるんだろ?』
「うん」
『じゃ夕方迎えに行く』
「夕方?」
『こっちもちっと忙しいんだ。すまねぇな』
「───────────別にいいけど」

嘘だった。こんな日も坊ちゃんを優先する小十郎に私は不満だった。唇を尖らせた私に小十郎は電話の向こうでくつ、と笑ったようだった。

『その代わり夜は泊まろうぜ』
「小十郎のエッチ」
『何だよ、久しぶりに会うのにお前はしたくねぇのか?』
「したくない、わけじゃないけど・・・・・・」
『だったら朝まで寝かせねぇからそのつもりでな』
「・・・・・・冗談に聞こえないよ」
『当たり前だろ?冗談を言ってるつもりはねぇ』
「───────────やだって言ったらどうするの?」
『本当に嫌ならやめるぜ。今日はお前の誕生日だからな』
「・・・・・・考えとく」

直接的な言葉に思わずため息をつきそうになる私をよそに小十郎は電話の向こうでずっと笑っているみたいだった。その声に私は安心する。

『ああ、そうしてくれ。ああ
「何?」
『すまねぇな』
「何をいまさら言ってるの?明日も坊ちゃんのお守り?」
『ああ』
「そう、頑張ってね」
『ああ。、お前も無理せず寝ろよ』
「うん。そうする。じゃお休み」
『ああ』

それだけを言って電話を切る。そして深夜を回った時計を眺めながら私はデートを楽しみに目を閉じた。



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