温かい・・・・夢うつつで布団の幸せを噛み締める。目覚まし時計が鳴らないからまだ大丈夫。あと10分だけ・・・・

むにゃむにゃと呟いて丸くなる。あぁ、布団の中って幸せ、と思ったその瞬間だった。

スパーンという音とともに乱暴に障子が開かれて、女性の部屋だというのにお構いなしにずかずかと男が部屋に入っていたのは。

「Hey、!Wake up!!一体いつまで寝てやがる!!」
「へ・・・・・・?」
「Wake up!!Hurry!!」

聞きなれない声に、うにゃ・・・・と目をこすりながらうっすらと瞳を開き───────────、目の前の隻眼に思わず悲鳴を上げた。

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「───────────っ!?いきなり悲鳴あげんな!」

悲鳴を上げるな、といってもそれは無理な話。すっとあごをすくわれ、キスされるんじゃないか、と思うほど近くの美形の青年の顔が目の前にあったのだ。とて女性のはしくれだ。起きぬけにいきなり男の顔があれば悲鳴のひとつだって上げたくなる。しかもそれが超絶に整った顔であれば尚のこと。

「ちょ、な、な、なんでっ!?」
「Ah?テメェが起きてこねぇから起こしに来てやったんじゃないか。You see?」
「わ、わっかんないわよ!!って、ゆーか!!何で私の寝室に政宗さんがいるの!?んで何で襲われそうになってんの!?」
「Ha?せっかく俺がkissで起こしてやろうと思ったのに。目開けんのが早いんだよ」
「冗談でしょ!?私そんな習慣いらないから! だ か ら 何で、政宗さんがここにいるの!?」
「ここは俺の城だ。俺がいて何故悪い?」
「い、いや、そうじゃなくて・・・・・・・って、そこ、どいて!!」

微妙にずれた返答に頭を抱える。確かにそのとおりなのだが、今にも襲われそうな体勢の政宗の胸を押し返し・・・・の手が一瞬止まる。

寝起き=パジャマ・・・はないから=襦袢=浴衣、のようなもの

急に動きを止めたに政宗がにやにやと笑いながら立ち上がる。だが、はそんな政宗の態度など気付くはずもなかった。寝乱れた襦袢の胸をかき合わせて、思い切り政宗をにらみつける。

「Ham、まぁまぁってトコだな」
「───────────っ!?政宗の変態〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

見られた、という羞恥に真っ赤に染まるの怒声に、何があったのか、と慌ててやってくる喜多にカラカラと笑いながら手を振って、政宗は部屋から出ていった。


「し、信じられない!信じられないーーーー!!あの男!!」
「あらさま、おはようございます」
「お、おはよう、ございます」

くすくすと笑いながら入ってきた喜多のあまりにも動じない挨拶に毒気を抜かれて思わず口ごもる。さすがというかなんというか。あの政宗の守役でもあり、小十郎と綱元の姉だという彼女の肝の太さには度々驚かされる。



 昨日の夜は宴会だったのだ。話の流れから何故か『竜の巫女』とやらをやらされる羽目になったのだが、その歓迎会だ、といいながら政宗は酒と料理を城にいる家臣たちにも振舞って、始めは恐る恐る覗き込んできた兵士たちも、酒の力なのか最後には無礼講の宴会になっていて、あのノリの軽さにはにとってはある意味新鮮だった。裸踊りなど初めて見たし、今じゃすたれた一気飲みなど、まるでどこかのヤンキー集団のような彼らを眺めながら政宗と小十郎、成実、綱元の四人は楽しそうにしながら静かに杯を傾けてはいたが、はっきり言って四人とも洒落にならないぐらい酒に強かった。も飲めないわけではないが、もっぱら甘いカクテル専門だ。日本酒は飲んだことがなかったが、政宗に勧められるまま口にしたそれは、が飲んだことのない味ではあるが、ものすごくおいしかった。正直日本酒がこんなにおいしいなんて初めての経験だった。ほめ上手な政宗と綱元に乗せられて1本空けて、そこでギブアップだった。

「なんだよ、もう終わりかよ」
「む、無理。これ以上飲んだら二日酔いになる」

冗談抜きでこれ以上は一滴も無理だった。一応自分の酒量の限界は心得ている。就職してからの飲み会で散々飲まされて痛い目を見てきただけに、そのあたりは自然と身についたものだ。あの時は会社行事で酒を飲ませるなど最低、と思っていたが、意外に身につく習慣は侮れない。

「お前、存外弱いな」
「成実さま、まぁ女性(にょしょう)はこのくらいの方が良いのではないですか」
「そうか。では景綱、この女の代わりにお前が飲むか?」
「頂戴いたしましょう」

ちら、と酔っ払うを見て成実があきれたように告げれば小十郎が笑う。昼のやりとりが嘘のような和やかな二人に綱元がそっと口元を隠して笑う。

「本当に、成実さまも小十郎も素直じゃないですねぇ」
「Ah?綱元、お前も空いてるぜ。ほら」
「殿自らとは、恐れ入ります」

真っ赤な顔に手を当てて冷やそうとするを横目に政宗が綱元の杯に注ぎ込む。先ほどから4人で2升以上は空けているはずだが、4人とも顔色ひとつ変わらない。するすると飲み干してゆく彼らに、ははしたないとはわかっていながらもぐったりと柱にもたれかかる。パタパタと手扇で風を送っていると、廊下から次の酒を持って喜多が姿を見せた。女中とともに現れた彼女たちの手には1升の木桶が2本。まだこの4人で2升も飲む気なのか?と目を丸くするに、喜多は笑いながらそれを置いて、女中を帰してから空になった桶を集めてゆく。

「あらあら。大丈夫ですか?」
「は、はい」

真っ赤なの首筋にすっと喜多の手が当てられる。火照った肌にすこしひんやりとした彼女の手が気持ちいい。の体温で温かくなった手をはずすと政宗がそんな喜多を手招いた。

「Oh、喜多、お前も飲め」
「殿、御酒はほどほどになさいませ。小十郎、綱元、そなたたちもです」
「は・・・・・・」
「姉上、わかっております」
「喜多、今日は無礼講だといってんだろ?」
「殿」
「───────────ったく、お前ら姉弟は俺を見りゃ小言ばかり」

飲め、と言いながら自分の杯を持たせて注ぎいれた酒を喜多は水でも飲むかのように干して、政宗に返杯する。だが、そういいながらもきっちりと釘をさす彼女に、小十郎と綱元は顔を見合わせて苦笑する。彼女の一言に肩をすくめた政宗が小さくぼやくと、喜多と小十郎が声を上げる。

「殿」
「政宗さま」
「Shit・・・・・・」

舌打ちをしてつい、と視線を逸らした政宗に、成実はいつものことなので苦笑していたが、は感心したように喜多を見返した。その視線に気付いたのか、綱元がを手招いて、彼は紳士的に冷えた水を渡してやる。

「喜多は政宗さまの守役なんだよ」
「守役?」
「ああ。政宗さまがまだ梵天丸さまだった頃から、教育係としてお側に仕えていた」
「へぇ・・・・・・だからあんなにはっきりと政宗さ・・・・ま、におっしゃるんですね」

つい「政宗さん」といいかけたがじろり、とにらむ小十郎の視線に慌てて言い直す。昼に危うく呼び捨てで呼んでしまい、殺されそうになっただけにこの小十郎の視線は怖い。

「No、政宗でいい。それから俺に敬語は使うな」
「で、でも・・・・・・」
「Ah?」
「い、いえ、ナンデモアリマセン。ええと、政宗、さん・・・・?」
「I see。いいな、小十郎」
「───────────は」

ぴくん、と眉を上げる政宗に条件反射で口ごもる。長いものには巻かれろ、という例えどおり、の心の中で『政宗に逆らうべからず』がすでに根付きつつあった。恐る恐る政宗の名を「さん」付けで呼ぶと政宗はにこりと笑ってみせる。その笑みにの頬がぽっと赤くなる。顔がいいのは得だ、と思う。そんなを興味深そうに見つめる成実と綱元の視線に気が付いて、もごもごと口を動かしながら政宗から視線を引き離す。その間に政宗が「不謹慎だ」と口を開く小十郎に釘を刺したことはは知らない。そんな彼らの視線に気付いたのか気付かないのか、まったく気にしないように喜多が笑う。

「ええ。ですが守役は私だけではありません。綱元も小十郎も殿が幼いときからお仕えさせていただいております。綱元と小十郎は私の大切な弟でもありますのよ」
「へ?」

政宗と杯をやりとりしながらにこにこと告げた彼女に、は目を見張る。三人には悪いがまったく似ていない。ということは、喜多は綱元と小十郎にもはっきりとモノをいえる立場、ということで。もしかしたら伊達軍で最強なのは喜多なのではないだろうか。

「私の母が、綱元の父に嫁ぎ私を産んだのですが、綱元の父は男子が生まれなければ意味がないとして母を離縁して綱元の母を娶りました。後妻から生まれたのが綱元で」
「で、離縁された喜多の母が景綱の父に嫁ぎ、景綱が生まれた」
「ええ。ですから、私は綱元の異母姉になり、小十郎の異父姉にあたります。年は離れておりますけれど」
「はい?ええと・・・・・・」

くすくすと世間話のように告げながら杯を干して政宗に返杯する。その後を引き継ぐように成実が説明するが、は思わず頭を抱えた。

「Ha、後で何か書くモンを貸してやるよ。大体この説明をされたヤツは一度じゃ理解できねぇ」
「それより、殿、そろそろ」

喜多が再度返杯すると、政宗はそれを干して物足りなさそうに酒に視線をやる。もっと飲みたい、という意思表示だったが、喜多はさっさと片付けを始めており、それに倣うように小十郎と綱元が杯を置いた。

「おいテメェら。俺を裏切る気か?」
「政宗さま、姉の申すとおりです。本日はこのあたりで」
「そうですね。過ぎた御酒は身体に毒ですから。我ら殿よりも年嵩なれば、酒も身体に応えます」

律儀に頭を下げた小十郎と、くすくすと笑いながら告げる綱元のいい様に政宗も舌打ちをしながら杯を置いた。どうやらこの三人には敵わないらしい。見れば成実も杯を置いていたが、気のせいではなければ先ほど喜多が持ってきた2升の酒が空になっているように見えた。そういえば、喜多もかなりハイペースで飲んでいたが、ちら、と視線をやれば、にこりと笑って返される。あの杯で確か10杯近く飲んでいたような・・・・・・。と思いながら、まったく酔う気配のない彼らに、はげんなりと綱元が注いでくれた水を飲み干した。冷たいそれは火照った身体に染み渡るようにおいしかった。「綱元さん、優しい」。外見も政宗や小十郎たちに比べてずっと線が細い。どちらかというと貴公子然とした姿だが、物腰は柔らかいが政宗への進言といい、一筋縄ではいかない人物のようだった。だが、に対しては常に女性として立ててくれる優しさが嬉しい。

さま」
「はい」
「奥にお部屋を用意いたしました。ご案内します」
「え、でも・・・・・・」
「Ah、ここはもういい。休みな」
「あ・・・・・うん、じゃ、お言葉に甘えて。お休みなさい」
「Good night」

頭を下げると喜多にひらひらと手を振って見送った政宗たちと別れ、用意された部屋で心地よい眠りについたのだが。




「ほんっと、目覚めは最低!!」

ぐっとこぶしを握ったに、喜多はくすくすと笑ってみせる。

「でも、殿もさまも楽しそうですわ」
「楽しくないです!」
「まぁ───────────」

そういいながらまた笑い、喜多は女中にいいつけて手水を用意して、の着物を用意して控えていた女中を中へと呼んだ。

さま、私は今愛姫さま付きにて奥向きをお預かりしております。多忙にて行き届かないこともあるかと思います。この者はさま付きの八重、と申します。お困りのことがありましたら八重に申しつけください」
「え、そんな・・・・!」
「八重と申します。よろしくお願いいたします」
「八重、さっそくお召し変えを」
「はい」

八重という女中は年の頃はとそう変わらないように見えた。にこりと笑うとえくぼがかわいらしい。恐らく喜多が自分と同じ頃の女中を探してくれたのだろう。その心遣いに感謝をしながらも、は慌てて手をふった。

「あの、喜多さん、私自分のことは自分で」
「あら、さま、ご自身でお着付けできましたかしら?」
「・・・・・・・・・ぐ・・・・・・・」
「それに、殿からお話しは伺っております。八重も口が固うございます。何でも八重に申しつけください。良いお慰みになりましょう」

そういいながら、八重はてきぱきとに着物を着付けていって、これ以上の反論はできなかった。確かに見るもののほとんどが使い方がわからないのだ。いつも政宗や小十郎たちもしくは喜多がいてくれるわけではないから助かるといえば助かるのだが。

「それでは、私は失礼致します。御用がございましたらおよびくださいませ。八重、頼みましたよ」
「はい。喜多さま」

最後までにこにこと笑いながら去っていった喜多に、は完全に負けた、と頭を抱える。喜多のあの笑顔に政宗や小十郎とて敵わないのだから当たり前といえば当たり前なのだが。

さま」
「へ───────────?」
「よろしくお願いいたします」
「あ、はい。八重さん、ヨロシクオネガイシマス」

頭を下げる八重に、も頭を下げて受け入れたのだった。



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