眼前に置かれた膳二つには思わず首をすくめた。ちら、と膳の向こうに座る二人を見上げて、見なきゃ良かったと後悔する。

、もちろん俺のを選ぶんだろ?」
「いかに政宗さまであってもここは譲れませぬ」
「Ah?いくらいい材料を使ってるにせよ、後はそれを料理する腕だ。その点俺の腕はよく知ってるだろ?」
「う、うん・・・・・それは・・・・・・」
「ですが、材料の良しあしは味を左右いたします。この俺が手塩にかけて育てた野菜たちだ。うまいぜ」
「うん・・・・・それは、そう、だけど」

牽制しあう二人には頭を抱える。普段なら政宗相手に張り合うことはしない小十郎だというのに、今日に限っては引かないらしい。一体何で、と思いながらは見つめてくる二人を見上げた。



事の起こりは今朝のことだった。政宗と共に朝食をとるように命じられているから、はいつもと同じ時間に起きて八重に手伝ってもらいながら身支度をして広間に向かう。

「おはようございます」
「ああ。おはよう」

頭を下げて用意された席につくと、先に来ていた小十郎が手を上げて挨拶を返してきた。上座に座るべき政宗はまだ姿を見せていないようだが、用意された膳の数を数えては小さく首をかしげる。

「あれ?小十郎さん一人ですか?」
「ああ。みたいだな」

普段なら以外に二人から三人の相伴衆を同席させるのに、今日に限っては小十郎一人らしい。珍しいと思いながら座っていると、小十郎が口を開いた。

。ここの生活には慣れたか?」
「え・・・・・・?あ・・・・・うん。みんなよくしてくれるし、八重さんもいてくれるから」
「そうか。不自由なことがあれば八重に言うといい。できるだけ融通を聞かせてくれるだろうからな」
「あ、うん。ありがとう」
「礼を言うことじゃねぇだろ。『竜の巫女』に不便をさせるわけにゃいかねぇからな」
「あ、そういうことですか」
「当たり前だろうが。お前は伊達家にとっての切り札でもあるからな」
「切り札って・・・・・・私、別に何ができるわけでもないですよ?」
「いや、お前は立派に『竜の巫女』の役目を果たしているだろ。自信を持て」

優しい声には目を丸くする。普段は厳しすぎるくらい厳しい小十郎がまさかそんなことを言ってくれるとは思わなかった。驚く彼女に小十郎はにやりと笑う。

「まあ、これからはどうなるかはわからねぇがな。とりあえずさっさと字を覚えろ」
「・・・・・・ど、努力します」

釘をさしてくる小十郎にやっぱり、とうつむいた。案の定ただ褒めてくれるだけではない彼に、ぎゅっと手を握る。しみじみ、後見になってくれたのはありがたいが、飴と鞭という言葉がぴったりの彼の教育方針には振り回されっぱなしだ。そうしているうちに廊下で足音がし、小十郎は黙って手をついた。すぐに姿を見せたのは政宗だった。スタスタと歩いて上座に座り、軽く手を上げる。

「Good morning」
「おはようございます」
「お、おはようございます」

政宗が席につくと、すぐに食事が運ばれてくる。三人の前に並べられた膳に政宗が手をつけるのを待って口に運ぶ。いつものことながら、吸い物以外の料理はすっかりと冷め切ってしまっていた。料理が出来てから毒見番を通ってくるのだから仕方がないとはいえるが、は冷たい魚を口に運びながら小さく息を吐いた。

「Ah?どうした?kitty」
「い、いえ、何でも」
「何でもねぇってため息じゃなかったな、小十郎」
「は・・・・・、申し上げろ」
「う、ううん。お魚、冷めちゃってるなって」
「Ah───────────?」
「は───────────?」

の言葉に政宗と小十郎が奇妙な顔になる。だが小十郎は何か心当たりがあるらしくすぐに口を閉じたが、政宗はじっとを見つめる。

「料理とはそういうモンだろ?」
「え?違うよ。作ったばかりの料理って湯気が立ってて、温かいものでしょ。政宗さんだって料理作るならわかるでしょ?」
「───────────まぁ、確かにな」
「でもここのお料理って、おいしいんだけどいつも冷めてるから・・・・・。たまには自分の下手な手料理でいいから温かいものが食べたいなぁって思って」
「Hum・・・・・・そういうことか。だったら俺が作ってやろうか?」
「え・・・・・・?」
「政宗さま、そのようなことは家臣にお任せください」
「Shut up。別にいいだろ。先日の戦はがいたから早く片付いたんじゃねぇか。それはお前も認めていただろ」
「それはそうですが」

口ごもる小十郎に政宗は軽く指先だけでを呼び寄せる。

「何が食いたい?」
「え、別に何でも・・・・それに私、自分で料理ぐらいできるし」
「いや、家臣たちには働きに応じた褒美を出しているからな。考えてみりゃお前に褒美を出してなかった。お前には地位も名誉も関係ないだろうからな」
「政宗さま、でしたら小十郎にお任せください。政宗さまのお手を煩わせることではございません。、いいな?」
「う、うん・・・・・・・」
「おい小十郎!」
「なんですかな」
「テメェ、抜け駆けとはいい度胸じゃねぇか」
「抜け駆けなどとは人聞きの悪い。政宗さまには政務をこなしていただかねばなりません」
「Shit・・・・・だったら競争だ」
「は───────────?」
「俺が作ったもんと、小十郎が作ったもん、にどっちが食いたいか選んでもらおうじゃねぇか」
「えぇっ!?」

何故そうなるんですか!?という声を飲み込んで政宗を見る。そんな贅沢なことなど考えていなかった。だけど政宗が言い出したら止められないのはわかっている。唯一止められるとすれば小十郎だが、ちら、と彼を見るが、彼は眉間にしわを寄せたままで。

「はぁ、まったくあなたという人は・・・・・・・」
「Ah?面白ぇだろ?小十郎、手ぇ抜くんじゃねぇぞ」
「───────────かしこまりました」
「ちょっ・・・・・・!本気!?」
「Of course」

政宗には当然のようにそう答えられ、小十郎は渋面のまま、仕方ないとばかりに小さく首を振る。その二人を前に、は諦めにも似たため息を漏らすことしかできなかった。




そして今───────────。二人の膳には湯気が立ち、おいしそうな香りが漂っている。どちらかを選べと迫られて、は悩んでからひとつの膳に手を伸ばした。



<政宗の膳を選ぶ>

<小十郎の膳を選ぶ>

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